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10話


 それから一週間、エレナはご飯を食べては寝てを淡々と繰り返した。

 その間、ハルトは忙しいはずなのに悪夢でうなされるエレナのを背中を優しく摩っていてくれた。

 そんなある日、ハルトがエレナに優しく告げる。


「エレナ、元気になったらお前に会わせたい奴がいる」


「私に、会わせたい人?」


 エレナは不思議そうに首を傾げた。


「ああ、きっと喜ぶ」


 ハルトの笑みにつられて、エレナにも笑みが浮かんだ。



◇◆◇◆◇



 エレナはハルトに抱っこされて、竜王城を訪れていた。世でいうお姫様抱っこという奴だ。かなり恥ずかしい。


「あれ? エレナじゃん!」


 懐かしい声が聞こえ、目を向けるとそこにはヴェンがいた。


「ヴェン、無事だったのね!」


 ハルトの腕の中でエレナはヴェンに話しかけた。


「エレナこそ突然姿を消すから、僕、とっても焦ってんだからね!」


 頬を膨らませるヴェンに自然と笑みが浮かぶ。


「ふふ、ごめんなさい、ヴェン。そうだわ、今度一緒にお茶でもしない?」


「嬉しい誘いだけど……お断りさせてもらうよ。僕もまだ死にたくないし」


 突然顔を真っ青にして震えだすヴェンに首を傾げていると、頭上から不機嫌の声が聞こえてくる。


「もういいだろう。それでヴェン、お前がここにいるということは調べ物が終わったということだよな? あとで執務室に来てくれ」


 ハルトはそう言って、再び歩きだす。そのまま謁見室のようなところに入っていく。


(え? 謁見室って偉い人達と会うところだよね? お姫様抱っこして入っていくようなところじゃないよね?)


 戸惑っていると、懐かしい声がエレナの耳に届いた。


「……あ、姉上?」


「……え?」


 声が聞こえ方を振り返ると、そこには変わり果てたヴァンが立っていた。

 青みがかった白銀色が海のように真っ青な色へと変わり、右目は淡褐色(ヘーゼル)からエレナと同じ琥珀色(アンバー)になっている。世でいうオッドアイである。


「姉上、生きていらしたのですね!!」


「ど、どうして……」


 いまいち状況が飲み込めていないエレナをハルトが床におろしてくれる。


「ヴァン! 生きていたのね! お父様やお母様はどこにいるの?」


 エレナはヴァンに近寄り微笑みながら問いかける。

 いち早くお父様とお母様を安心させてあげたかった。自分は生きているのだと。

 そんなエレナとは裏腹に、ヴァンの顔は歪み、唇を強く噛み締めた。


「……父上と、母上は死にました。私を敵の手から逃がすために囮となって……」


「……え? 死んだ? どうして……」


 ヴァンから告げられる事実に、脳内が真っ白になる。

 それから、ヴァンはエレナが行方不明になってから起こったことを丁寧に説明してくれた。


 夜盗に襲われ、命からがらギルバート公爵邸に辿り着いたヴァンは、国にエレナの捜索を願い出た。しかし国は、シュルツ王子とローズ男爵令嬢の結婚式の件で忙しいとそれを無視し、ギルバート公爵家は単独でエレナを捜索し続けた。

 エレナが行方不明になってから一ヶ月後、シュルツ王子がローズ男爵令嬢を側室として迎えられ、その頃から王国内に『ギルバート公爵家が領民の税を横領している』や『隣国に王国を売ろうとしている』という根も葉もない噂が流れ始める。

 その噂を丸呑みにした王族は、『ギルバート公爵一家を捕まえ、処刑せよ』と王国中の騎士に命令を下した。

 突然王国中から狙われる身となったギルバート公爵と公爵夫人は、自らの命を犠牲にし、ヴァンと従者達を隣国へと逃した。

 そのときヴァンに眠る神狼の血が覚醒し、ふと気付いたときには竜王城の庭で従者達と共に倒れていたのだとか。それをハルトが助け、ヴァンから事情を聞いたとき、エレナが行方不明であることを知り、あらゆる国の奴隷市場を一つ一つ潰していったらしい。どうしてこんなにもエレナの救出が遅れたのかというと、エレナが売られては返却を繰り返していたからだ。だから、中々足取りが掴めなかったのだろう。


「姉上、すみません。私がもっと早く血の覚醒をしていれば、父や母を救えたかもしれません。私が無力だったから……姉上も辛い目に遭って……」


「ヴァン……貴方だけが悪いのではないわ……きっとお父様もお母様も最後にヴァンを守れて幸せだったと思うの、だから……」


「姉上……」


 ヴァンは静かに泣くエレナを抱きしめようと動くが、ハルトがそれを阻む。


「いくら弟といえど、エレナに近付くな。エレナは俺のものだ。それと後で話があるから、俺の執務室に来い」


 そう言い残して、ハルトはエレナを抱き上げ謁見室の奥の部屋へと消えていった。


 


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