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1話

 今私──エレナ・ギルバートは、目の前の光景を非常に冷めた目で見つめていた。



 シュルツ・レオンハートは、エレナの婚約者であり、シュルバート王国の第二王子だ。国王と正室の子であるシュルツ王子は、側室の子である第一王子を抑えて、第一王位継承権を持っている。

 近い将来、国を担っていくであろうシュルツの未来の正妃としてエレナは、幼い頃から花嫁修行に勤しんできた。


 そんなエレナを放ったらかして肝心のシュルツ王子は、王族主催の社交会でローズ男爵令嬢と大胆にも口付けをしている。それもかなり濃厚なものを……。

 冷静なエレナとは違って、周囲の反応は実に様々だ。

 エレナに同情する者、興味深げに見つめる者、そして公爵令嬢であるエレナを嘲笑う者……。

 艶やかな銀髪に、琥珀(アンバー)色の瞳、老若男女問わず見惚れてしまう完璧な容貌。

 そんなエレナに足りなかったもの……それは目の前でシュルツ王子と楽し気に踊るローズ男爵令嬢のような可愛らしさだろうか?

 ローズ男爵令嬢はピンク色の髪をフワフワと靡かせ、どこか庇護欲を掻き立てられる。

 それに比べてエレナは、誰からも助けを必要とせず、一人で道を切り開いていく女性。男性だったら、エレナみたいな女性よりもローズ男爵令嬢みたいなつい守ってあげたくなる女性の方が断然いい。


(まるで物語に出てくる悪役令嬢みたい……)


 そう自覚した瞬間、エレナの脳内に流れ込む数々の記憶に、一瞬フリーズしかけ、同時に目眩を覚える。


(これは……前世の記憶というものかしら?)


 前世の記憶を思い出したエレナは、先ほどのエレナと同一人物のはずなのだが、明らかに違うと感じた。

 

 まるで、前世の自分がエレナの身体の指導権を奪い取ってしまったかのようだ……。


 たかが男爵令嬢に婚約者であるシュルツ王子を盗られ、公爵令嬢としてのプライドが傷つけられた! と泣くところなのだろうが、エレナの表情に浮かぶのは自嘲の笑みである。


「エ、エレナ様……?」


 突然笑みを浮かべるエレナに取り巻きの令嬢達が戸惑い始める。


「ふふ、ごめんなさい……なんか面白くて、ふふ、なんて馬鹿馬鹿しいことなのかしら」


 そう言うエレナに取り巻き達は不思議そうに首を傾げた。

 それもそのはず、自分の婚約者が目の前で堂々と浮気をしているというのに、それを見て笑っていられる女がいるだろうか? 


(……これは国のための婚約じゃない。今更後悔したって遅いのよ。いや、このギルバート公爵家に生まれた瞬間から私の幸せなど二の次なのだから……)


 エレナは諦めていた。この国は一夫多妻制で、自分の他に女が出来ても仕方ない。側室の一人や二人、受け入れられなくて正妃など務まるはずかない、とエレナは心得ていた。


 そうと分かっていても、「どうして、その女なの! 私の方がシュルツに相応しいのに!」ともう一人のエレナが語りかけてくる。おかげで、必死に堪えているものが今にも崩れ落ちてしまいそうだ。


「皆様、体調すぐれませんので、お先に帰らせていただきます」


 自分の心を悟られまいと必死に余裕の笑みを浮かべ、周囲にそう告げる。


「エレナ様……その、殿下にお知らせしますか?」


 取り巻きの一人が恐る恐る尋ねてくる。エレナはチラリとシュルツ王子の方に視線を向けた。視線の先ではローズ男爵令嬢の腰を抱いて楽しそうに踊るシュルツ王子がいる。


「大丈夫よ。それに殿下ももう少し楽しみたいでしょうから、ね?」


 気にしないで、と笑うエレナに取り巻き達は今にも泣きそうに顔を歪めた。尊敬して止まないエレナが、どこか惨めで可哀想に見えたのかもしれない。


「泣かないで、せっかくの可愛らしい顔が台無しよ。貴女達は、今宵の蝶でしょう? 蝶は美しく舞わなければいけないの」


「で、でも……」


「いいのです。私は殿下の些細な楽しみを奪いたくなどありません。だから貴女達は私の分まで多くの殿方の心を酔わせて頂戴? それではお先に失礼致しますわ」


 優雅に紅のドレスを翻し、エレナは一人で会場を後にする。

 社交会において、自分のパートナーが退場する際はそのパートナーに付き添うのが暗黙のルールだ。

 しかし、シュルツはローズ男爵令嬢に夢中でエレナの退場に気付きもしない……。いや、気付いたとしても無視するに違いない。

 一人寂しく会場を去ろうとするエレナを会場にいる殆どの人が同情した。そして会場中央で楽し気に踊るシュルツ王子とローズ男爵令嬢に射殺さんばかりの視線を送るのであった。

 短編小説である『捨てられた令嬢と拾った青年』をモチーフにして書き直しました。かなり内容や設定が変更されています。

 現在、大幅書き直し中です。可笑しい点がありましたら、感想やメールで教えていただけると嬉しいです。ご迷惑をおかけします。

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