熱に酔う
「あー、あっという間だったなぁ」
瀬川部長が、うーんと背を伸ばす。
お祭り特有の、じんわりとした熱が緩やかに広がっていく。
人の熱気、屋台から出る熱。どこかで花咲く恋の熱。
もう終わってしまったのだけれど、学校中が今もその余韻に浸っている。
「そうですね」
「俺達の作った迷路も、あんだけ時間がかかったのに、終わっちまったら壊すのは一瞬だもんなぁ」
こきこき、と首を曲げる部長。きっと寝不足だったんだろうな。
私達の部は、子ども達向けの迷路作りを例年の恒例としている。
制作には、春期の頃から取り掛かり始める。5月の時点で迷路のテーマを部内で検討する。
本格的な作成は夏休みの頃から始まる。
まずは、学区内のあちこちの店から段ボールを回収する所からスタートし、迷路作成委員が、てきぱきと工夫を凝らした迷路を考え、図案を作る。
それを部員全員で検討して、その図案の通りに迷路を作れるように、学内の教室を予約し、そこの机や椅子をどう配置するか検討する。
そして、子どもがぶつかっても壊れないように、しっかりとした強さで固定できるやり方を模索する。
私達の部活は、人数も物凄く多い。子どもと関わりたいという強い想いで皆が集まっている。
その分、それぞれの価値観、ものの捉え方が大きくずれた時、大きな衝突が生まれたり、妙な軋轢が生まれたりする。
これらを纏め上げるのが、我らが瀬川部長だ。
今までの準備段階でも、色々ともめにもめた。
子どもを楽しませるのが目的なのだが、その目的を達成するためには、まず、部員の意見のぶつかり合い、「ケンカ」が必要なのだ。
皆の違った意見を引き出し、それを最終的に子どもが喜べるような手立てを導き出し、見事に結論にもっていく瀬川部長の手腕は本当に鮮やかで、だからこそ私達は安心して迷路作成に関する意見や、子どもに関する価値観をぶつけ合わせることができた。
だからこそ、今、私達はこんなにも晴れやかな笑顔で、夜空を見上げている。
「子どもが一杯遊びに来てくれてよかったですね、部長」
「そうだな」
部長は、満足げに笑う。
今年は例年以上に子ども達が遊びに来てくれた、とOBやOGからも好評だった。
あちこちでビラを配って宣伝をしたこともあるし、地域の子ども会に顔を出したことなどでも功を奏したらしい。
「俺はもう今年で最後だけど、お前らはこれ以上の迷路を作ってくれよな」
瀬川先輩の声に、次期部長の私は大きくうなずいてみせた。
「……はい!」
正直、こんなにすごい先輩のように、皆をまとめられるのかという不安はある。
でも、と思う。
今日のこの喜びをまた味わいたいと。
この想いさえあれば、きっと、これを超える迷路もつくれるはずだ。
「頑張ります」
「おう」
くしゃりと撫ぜる手は、どこまでも優しかった。