表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
9/85

理由~featuring 山本~

「俊哉君は意識を取り戻して、ゆっくり寝ているところです。彼は熱中症だろうと思われます。恐らく、最近は気温が急に上昇しましたので、その影響も考えられます。他の部員さんが熱中症を発症する前に、こまめな水分補給を呼びかけてください」

 と医者は監督と顧問に告げた。

 「分かりました。ありがとうございます」

 と顧問は医者に頭を下げた。顧問は監督に向き直り

 「監督、あの子達の練習には監督が必要です。この子の保護者にも連絡しました。後は僕が看ておきますので」

 と顧問が言うと、監督は

 「すまない、任せた」と言って学校へ向かっていった。そして顧問は俺に向き直り、

 「君は来る必要があったかな?」

 と言った。その言い方にイラッと来た俺は

 「“友達”なんで。」

 と“友達”の部分をやたら強調して答えた。

 「そうか、それは彼にとっても良い事だろう。友達はいないと思ってたもんでな。悪い。」

 と言う顧問の言葉に再び腹が立った。

 「友達はいないと思ってた、ってどういう意味ですか?彼は…」

 と言いかけている俺の言葉を遮り、

 「いや、悪かったな。しかし、彼はずっと練習をしている。朝から晩までだぞ? だが、その間、あの取り巻きの女子生徒以外が、彼に声をかけているところは見たことがないんだ。だから、友達はいないと思っていたんだよ。」

 と顧問は言う。

 確かに、俺が武田を見に行ったのも今日が初めてだし、クラスメイトと言っても同じ部活生しか見に行かないし、そういうことを考えると、周りから見れば友達は居ないと思われていても無理はない。ふと、俺は武田の事を“友達”と呼べるのか、と疑問に思ってしまう。

 「でも、俺はコイツの友達です。」

 と寝ている武田を見て、自分に言い聞かせるように言った。

 俺は立ち上がり

 「先生のお名前をお伺いても宜しいですか?」

 と聞くと

 「俺は熊谷 哲夫だ。普段は3年の英語を教えている。」

 と答えてくれた。

 「熊谷先生、コイツは俺がついてるんで大丈夫です。先生も学校に戻られては?」

 と提案すると

 「いや、保護者が来るまでは離れられない」

 と断られた。

 「でも、他の部員さんも倒れたら大変ですよ。彼は大丈夫です。俺から伝えときますんで」

 と言うと、少し沈黙した後、

 「わかった、頼んだぞ」

 と言って、顧問は病室を後にした。

 

 「おい、武田。お前、頑張りすぎじゃねぇのか?何でそこまで頑張る必要があるんだ?」

 と独り言のように言いながら、気がつけば武田の頭を撫でていた。それに気づいた瞬間、俺は手を引いた。

 「何してんだよ、俺…」

 と呟くと、俺はまた武田に話し始めようとした。

 すると、武田は

 「親父…」

 と呟いた。

 「おいおい、俺はお前の親父さんじゃ無いぜ?」

 と笑うが、すぐに寝言だと気づいた。少しして、武田は再び寝言を話し続ける。

 「親父、俺さ親父の夢、叶えたいんだよ。息子が甲子園出てるっ て夢をさ。でも、俺の叶えたい夢もあるんだ」

 武田はへへへっと笑いながら言った。

 「なんだなんだ?メジャーリーガーか?」

 と俺は笑いながら言うと

 「いーや、俺の夢はさ、甲子園に出て、母さんに見てもらうことなんだよ。母さんがどこかで俺の事を見たら、きっと俺の事を誇りに思ってくれると思うんだよな」

 俺は武田の寝言を聞いて

 「そうか…」

 と呟いた。

 「だからお前は頑張ってるんだな。俺も応援するよ」

 と言って武田の手を握りしめた。少しの沈黙の後、武田はいびきをかきながら寝た。

 また暫くして、武田の親父さんが病室に来た。武田の状況を伝え、学校に武田の荷物を取りに行く旨を伝えて、病院を後にした。

 

 「俺達、似てるかもな、武田」

 夕焼けを眺めながら呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ