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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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謙遜〜featuring 武田〜

 「うおっ! 大胆だな」

 「黙って前見てろ」

 俺の言葉を途中で遮るかのように、倖大は思いっきり首を絞める。

 「くっ、苦しいだろ……!」

 「なら黙って抱きつかれてろ」

 “面白いセリフだな、それ”

 心の中で笑いながら

 「わかった」

 そう言って何事も無かったかのように眠りにつこうとするが、なかなか寝られない。

 倖大は俺の首に腕を、俺の脚に脚で抱きついている。

 俺はとても落ち着かなかったが、不思議と安心出来る気持ちもあった。

 “こうやって後ろに誰かがついて寝てくれるのは何年ぶりだろうか”

 そんな事を思いながら考えていると、落ち着かない気持ちも収まってくる。

 “隣に居てくれる人がいるっつーのは、こんなにも嬉しい事なんだな”

 そう思うと何故か涙が溢れてくる。

 “小さい頃を思い出して泣くなんてみっともねぇな”

 俺は目から溢れた涙を拭き、背中に倖大の温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

 ──ジリリリリリリリリッ

 “もう朝か……”

 俺はけたたましい音を立てる目覚ましを止め、後ろで寝ている倖大を起こす。

 「おい、起きろ」

 「んーー」

 唸りながら目を擦る倖大は

 「今何時か?」

 と尋ねる。

 「朝6時だけど」

 「やべっ! 弁当とか作らないと!」

 焦る倖大に

 「ここはお前ん家じゃねぇんだから、作らんくても大丈夫だ」

 俺は笑いながら肩を叩く。

 「朝御飯とかは……」

 「親父が作ってくれてるから」

 「なんか悪いな……」

 「お前ん家じゃねぇんだから気にすんな」

 「でも……」

 何か気を使っている倖大に

 「取り敢えずそんな事言ってねぇで、さっさと着替えようぜ」

 と準備するように促す。

 

 部屋を出ると親父が飯を作っている姿が見えた。

 「親父、おはよう」

 「おぉ、起きてきたか!」

 親父は慌ただしく動き回っていた。

 「おじさん、おはようございます」

 「あぁ、おはよう」

 倖大が『おじさん』というのに体を少しびくつかせたが、俺の時とは違って、ちゃんと倖大の顔を見て挨拶する。

 「お前の親父はな、今日の飯に手間暇かけてるから期待しとけよ!」

 と少し上機嫌な親父に

 「親父のより、コイツの飯の方が手間暇かかってるぜ」

 と言うと

 「お前、失礼だろ!」

 山本に小声で叱られる。

 だが、親父にそれは聞こえていたらしく

 「気にしないでいいからな。いつもの事だし」

 と笑いながら言う。

 「あぁ……はい」

 倖大は少し納得がいかないような顔をしたが、何も言わなかった。

 「てか、めっちゃ気合い入ってんなー」

 「だろ?」

 俺ん家の朝飯にしては豪華な方だ。

 鮭の切り身、おひたし、ちゃんと大きさを揃えたような豆腐の味噌汁、そして天ぷら。

 普通ならありえないメニューだ。

 「コイツを毎日連れて来れば、毎日こんな飯が食えんのかな」

 「俺を殺す気か!」

 親父は俺の冗談を笑って返す。

 「毎日は無理だけどよ、そんなに料理が上手いなら俺に教えてくれな」

 親父は倖大に話しかける。

 「それほどでもないですが……」

 と謙遜する倖大に

 「そう謙遜する必要もないだろ?」

 親父は肩を竦める。

 「早く食べろ、時間ないぞ?」

 親父は時計を見て俺らを急かす。

 「おぉっと! いただきます」

 「いただきます」

 俺らは急いで飯をかき込んだ。

 

 「これも持っていきなさい」

 前と同様、親父は俺と倖大の分の弁当を手渡す。

 「ここまでして頂いて、ありがとうございます」

 「それ、この前も言ってた気がするけど」

 礼を言う倖大に親父は笑いながら言う。

 「コイツと仲良くしてくれてんだから当然の事だ、気にすんな」

 「話は終わったか? 早く行かねぇと遅刻するぞ?」

 俺は親父の話を遮り、

 「親父、じゃーな」

 と言って家を出る。

 「行ってきます、ありがとうございました」

 山本も続けて家を出る。

 親父は玄関口で

 「おう、気をつけろよー」

 と言いながら手を振って見送ってくれた。

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