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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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憂慮~featuring 山本~

「アイツ、また寝てんのか?」

 と、俺は城之内に尋ねる。

 「あぁ。」

 と城之内は答えて

 「コイツさ、最近酷くなったこの暑さの中、地区予選のために必死こいて練習してんだよ。」

 と言い、武田の事を心配するような目で見た。

 「ほら、レギュラーの中で唯一の1年生だろ? それにピッチャーだ。プレッシャーに負けじと頑張って練習してんじゃねーの?」

 と城之内。

 「なるほどな、アイツらしいっちゃアイツらしい。夜遅くまで残って練習してるみたいだしな」

 と俺が言うと、

 「それだけじゃねーぜ? コイツ始発で来てやがんの。それなのに課題もきちんと提出してるし、練習もこなしてる。そろそろ倒れないか心配だよ」

 と城之内が教えてくれる。

 「だから、最近同じ電車に居ないのか…」

 と俺が呟くと、

 「お? なんだ? 犬猿の仲から友情が芽生えたのか?! そういや、この前の係の件から、2人の距離は縮まったよな?! それにクールなお前が武田といる時は、感情がダダ漏れだよな!!」

 と城之内が嬉しそうに騒ぐ。

 「黙れ!」

 俺が椅子から立ち上がり、拳を振り上げると

 「わかった、わかった。」

 と城之内は両手を上げたが、

 「そんな恥ずかしがることないだろ? でも、俺は嬉しいんだぜ? 俺の大好きな友達2人が仲悪かった時、板挟みにされてた俺の気持ち、考えてみろよな?」

 城之内の顔は嬉しそうだ。

 「なぁ。」

 俺は着席しながら城之内に声をかける。

 「コイツの練習してる所、見に行ってやんねーか?」

 と誘うと、城之内は

 「えー? 俺は深夜徘徊ギリギリで帰るなんてしたくねーよ。」

 と断わった。

 「大好きな“友達”なんだろ?」

 と“友達”と言うところを強調して作り笑いで言うと、

 「あーもー、わかったよ、行こう。」

 と承諾してくれた。

 

 「きゃーーー! 武田君カッコイイ!!!!!!!」

 青天井のグラウンドの端、この暑さにも負けないくらいの熱い黄色い歓声が聞こえる。声の主は武田のファンの子達だ。

 「あ、あれが武田か。へー、めっちゃ頑張ってんじゃん。な?」

 俺が武田を指さしながら城之内の方を見た。だが、城之内は

 「へっ、いーよなー、お前らはチヤホヤされちゃってよー! 俺だってチヤホヤされてぇよ…」

 と落ち込む。

 「まーまー、いつかモテ期ってもんが来るんじゃねぇか?」

 と城之内を励ますが、城之内はため息をついた。どうやら、励ましはあまり効果が無いようだ。

 

 「あ、武田君がこっちに来るよ!!!!!!!」

 と一人が言って立ち上がると、他の女子も立ち上がり、武田の元へと駆け寄る。

 「よし、俺らも行こうぜ? ほら、立てよ!」

 と城之内に立つよう促すが、城之内は

 「俺だってチヤホヤされてぇよ…」

 と膝を抱えながら呟くだけで、動こうとしない。仕方なく俺一人で武田に歩み寄り、声を掛ける。

 「な、お前スゴイな、お前が頑張ってる姿初めて見たかもしれん。」

 と笑うと、武田も俺に歩み寄り、

 「はっ、何言ってんだよ! 俺はいつも頑張ってるし!」

 と叫び、ピッチングの真似をした。そして、俺はそのボールを受ける真似をして

 「ナイスピッチング!」

 と叫ぶ。すると武田が笑い出し、俺もそれに釣られて笑ってしまった。

 「俺、もう行かなきゃ。」

 と武田はファンの子達を下がらせ、俺に近づてきた。武田は

 「あのさ、もし良かったらLINEしねぇか?」

 と少し恥ずかしそうな顔をする。俺は

 「あぁ、良いよ。でも、今出来ねぇな…」

 と言いかけ

 「お前が練習終わってから交換しよう。俺、待ってるからさ。」

 と言い直した。

 「マジか? ありがとう!」

 と武田は嬉しそうに言ったが、その後、

 「…けど、遅くなるぜ?」

 眉間にシワを寄せて聞いた。

 「あぁ、大丈夫さ。その間、俺は俺で課題やっとくからよ。」

 と答えた。

 「わかった! じゃあ、また後でな!」

 と走っていった武田の背中に手を振った。

 俺が武田が持ち場に戻るのを見て、グラウンドの端に戻ろうとすると、

 「武田君!!!!!!!」

 と一人の女子が叫んだ。

 

 振り返ると、武田はグラウンドの上で倒れていた。

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