嫉妬〜featuring 武田〜
“またキッチンを見てやがる”
俺は少しイラついていた。
始めは
“可愛いな”
と思っていたが、段々
“俺と食いに来た意味はあるのか?”
と疑問に思うと同時に少し腹が立っていた。
山本がこんな風に真剣で、楽しんでいるような顔を見る機会はなかなか無いのだが、
“少しは構ってくれても良いんじゃねぇか?”
と思ってしまう。
「あれ凄いと思わないか?」
そう話してくる山本はキッチンから目を逸らさず、俺の顔を見ていない。
「ピザが冷えんぞ」
俺は平静を保てていなかった。
“これがヤキモチってやつか?”
俺の心の中で芽生えた複雑な感情をどうにか抑えたかった。
“山本は楽しそうにしてるじゃねぇか。なんで俺はそれを喜べねぇんだ”
と自分自身の心の狭さも感じ、次は自分に対して腹が立ってしまう。
「トイレ行ってくる」
そう言って俺はトイレの個室で必死に気持ちを整理しようとしていた。
“てか、ピザにヤキモチ妬いてるって最高にかっこ悪ぃじゃねぇか”
それを考えると笑えてくる。
「はぁ……」
俺は大きくため息をつき、立ち上がった。
「こんなんでモヤモヤしたってしょうがねぇだろ」
と自分に言い聞かせて席に戻った。
「お腹痛いのか?」
俺が席に戻るなり、山本は俺の体調を気にかけてくれる。
「いいや、別に」
俺はそう答えてついさっき届いたピザを食べ始める。
「……なんか機嫌悪いか?」
山本は俺の機嫌を気にしてきた。
「何でもねぇよ」
と言ったが、
“ピザにヤキモチ妬いてます”
なんて言えるはずもなかった。
「美味しかったな」
帰り道、山本は笑顔だった。
どうやら満足してくれた様だった。
俺は満足していなかったが。
「良かったな」
俺は普通に言ったつもりだが、自分でも分かるくらい冷たい口調だった。
「お前、ピザ嫌いだったのか?」
「嫌いとかはねぇよ」
「なら、なんでそんな機嫌悪いんだ?」
“ピザを作ってる所ばっかり見てたから”
とは言えず、
「イチャつく時間をくれなかったから」
と答えた。
「お前はバカなのか?」
「あーそうだよ! 俺は馬鹿だよ!」
山本のいつものツンツンした仕草にも腹を立ててしまった自分に嫌悪感を抱く。
「なんでそんなに怒るんだよ!」
「悪い、何でもねぇから」
「何でもないなら怒らないだろ?!」
山本と俺の間に不穏な空気が流れる。
「だから、悪いって言ってんだろ? すまなかった」
俺は謝ったが、山本は納得していないようだった。
俺は大きくため息をつき
「俺ん家に帰ってから話すから」
と言って家に帰るように促した。