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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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墓参〜featuring 武田〜

 「もしかしたら思い出すかもって思ったけど、無理だな」

 山本は地面に膝をつきそう話す。

 だが、話しかけている相手は俺ではなく、墓の方だ。

 「親の顔も分からないって、とんだ親不孝者だよな」

 山本は呆れ笑いをするが、俺は山本が鼻をすする音を聞き逃さなかった。

 “そりゃ、辛いよな”

 俺は山本の隣にしゃがみ込み、山本の肩を抱く。

 『離れろ!』

 山本はそう言って俺を突き飛ばす、という事はしなかった。

 「俺ってダメなやつだな……」

 山本は俺を見る。

 目は赤く、必死に涙を零さないように我慢しているのがわかる。

 「お前はダメなんかじゃねぇさ」

 そう言って俺は山本の頭を撫でる。

 「俺が惚れた奴がダメなやつってあるかよ」

 「意外とあるかもな」

 山本は俺の言葉を笑いながら言い返す。

 「お前さ、こんな時くらいは我慢しなくてもいいだろ?」

 「俺が何を我慢してるんだよ」

 「それはお前自身がわかってるだろ?」

 とぼける山本に少し怒る。

 「……いや、なんか悪いから」

 「誰に対してだよ」

 俺は山本の言葉を鼻で笑う。

 「…………両親に」

 山本はそう言って肩を竦める。

 「家族の事だろ? 素直になって何が悪いんだ?」

 「こんな所で泣かれても迷惑だろ?」

 山本は笑いながらそう答える。

 「悪いとか迷惑とか……俺がお前の両親の立場だったら、泣いてくれない方が逆に心配するぜ?」

 「なんでだよ! なんで心配するんだよ」

 山本が俺に尋ねる。

 「そうやって抱え込んで、いつの間にか押し潰されねぇかとか爆発しねぇかとかって」

 俺はそう答えた。

 「誰がそうなるんだよ」

 「お前だよ! 少しくらい泣いたっていいじゃねぇか! 自分の感情を押し殺してお前の心が死ぬのはダメだ」

 俺はさっきよりも大きな声で山本を叱る。

 静かなこの墓場には大きすぎたかもしれない。

 山本はこの言葉を否定したりすることなく、

 「……ありがとう」

 そう言って微笑む。

 山本は俯き気味に墓に向き直る。

 「俺、養子って知ってから荒れてさ、色んな人に迷惑掛けてきた。でも、叔母さんが救ってくれてさ。俺、叔母さんみたいにたくさんの人の心を救いたいんだよね」

 と言って墓の名前が彫られた場所を見た。

 「もしそうなれたら、親不孝者扱いはしてくれなくなるかな」

 山本はそう言って笑う。

 その直後、山本は急に泣き出した。

 俺は慌てて山本を抱き寄せる。

 俺は何も声を掛けなかった、いや掛けられなかった。

 俺は山本が泣き止むまで、ただ抱きしめていた。

 

 「もう大丈夫」

 山本はそう言って俺の背中をトントン叩く。

 俺は山本から離れ立ち上がると、山本も立ち上がり、墓に向かって

 「じゃあ、また来月来るから。またね」

 と言って別れを告げる。

 

 俺らが華奈なんかの車に向かって歩いていると、山本は立ち止まり、

 「武田」

 と名前を呼ぶ。

 「なんだ?」

 俺も立ち止まり、山本の方を向き直ると

 「本当にありがとう」

 と礼を述べられる。

 「俺、何かしたっけか?」

 と笑うと

 「俺の背中、押してくれたじゃないか」

 と山本は答える。

 「なぁーに、当然の事じゃねぇか、彼氏としてな」

 と言って笑い飛ばすと

 「そっか、俺らそういう関係だったか」

 と言われる。

 「は? お前忘れてたのか?」

 俺が眉間にシワを寄せると

 「いやいや、冗談だよ、早く行こう」

 山本は俺の肩を叩き歩き出す。

 

 「いつも通りに戻ったんかな」

 と呟いたあと、山本の背中に向かって走り出し、後ろから勢いよく抱きつく。

 「おい! 離せ!」

 山本は怒鳴り、俺を突き飛ばす。

 予想通りの反応が返ってきて、俺も安心できた。

 「いい加減優しくしてくれねぇか?」

 “お前が本当に優しくなったらそれはそれで不気味だけどな”

 俺は口で言ったこととは別の事を思った。

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