登校〜featuring 武田〜
晴れ渡った青空は俺の心模様をそのまんま表した感じだ。
その理由は二つある。
一つは、俺が今山本の制服を着ているってことと、隣に居る山本の勘違いからの誤爆のおかげだ。
「なんでニヤけてるんだよ」
「あ? んー、いやー?」
山本に指摘されるほど俺の上機嫌の様子はダダ漏れだったようだ。
“お前のせいなんだけどなー”
俺は山本の顔を覗き込みながら心の中で呟く。
「……何だよ」
「お前ってほんとに卑怯だよなー」
俺がそう言うと山本は少しムスッとした。
「何がだよ」
「お前は何も意識してないんだろうけどよ、俺の事煽り過ぎだぜ?」
「調子に乗るな!」
山本は俺の肩を殴ろうとするが、すんでのところで山本の拳を受け止める。
「は、放せ!」
「そう何回もやられてたまるかよ」
山本の蹴りは痛くない為、蹴られても構わないが、パンチは何気に痛い。
「取り敢えず放せ!」
「もう殴らんか?」
俺は山本に尋ねるが、山本は俺を睨む。
「お前が調子に乗らなければな!」
「んー、じゃあ無理だな」
「おい!!」
これ以上怒らせると収集が付かない気がして、俺は笑いながら山本の拳を解放する。
「ははは、冗談だ! 早く行かねぇと遅れるぜ?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
山本は俺のケツに蹴りを入れるが、案の定痛くはなかった。
「こんな満員電車、久々だな……」
人が押し詰められた車内の中、俺にかなり密着した山本がしんどそうに愚痴を言う。
「でもよ、お前の登校時間って大体これぐれぇじゃねぇのか? 俺は始発に乗るからこんなに混んでねぇけどよ」
「混むのが嫌だから大体早めに乗ってるんだけど……」
山本はだるそうにそう言う。
「お前のせいでいつもの時間には出られなかったからな」
山本は俺を睨み、あたかも俺に全責任があるような物言いをする。
恐らく山本が俺のせいにしているのは朝飯の時間中、山本をいじり倒してた事だろう。
だが、俺が机で寝てたことをネチネチ言うもんだから言い返しただけだ。
「でも言い出しっぺはお前だろ? なんで俺だけが悪者なんだよ」
「何となく」
山本はそう言うと再びしんどそうな顔をする。
「なー、大丈夫か?」
俺は山本の事が心配になり声をかけるが、山本は『大丈夫』のジェスチャーをするだけだった。
「武田」
山本は俺に声をかける。
「なんだ?」
「気分が悪いから音楽聞いてていい?」
山本はスマホを指さしながら尋ねる。
「あぁ、別に構わねぇけど、大丈夫か?」
「あと少しだけだから……」
そう言って山本はイヤホンを耳につけた。
“そういや、最初会った時も満員電車だったよな……”
俺は突然、初めて会った時のことを思い出す。
“出会った時はこうなるなんて思ってもみなかったな”
そんな事を思いながら山本を見つめていると、山本はそれに気づき、
「何?」
と聞いてきたが、
“初めて会った時、俺との未来を想像したか?”
なんて言えるはずもなく、俺は首を横に振った。