昼食〜featuring 山本~
「なー山本、一緒に昼飯食おうぜ?」
と武田が俺のところに来る。
「俺は一人で食う」
と素っ気なく答えたが、武田はそんな返事などお構い無しに俺の机の所にイスを持ってきて、弁当を広げ始めた。俺の机の半分のスペースが武田に奪われて、
「おい、邪魔だ!」
と言ったが、武田は既に弁当を食べ始めていた。
大きなため息をついた俺に、武田が
「なー、山本」
と声を掛ける。
「何だよ?」
と武田を睨むと、
「おかず交換しねぇか?」
と武田は微笑んだ。
「イヤだ」
と一蹴したが、それを無視して
「俺さ、唐揚げが大好物なんだよな。だから、お前の弁当に入ってる唐揚げと、俺の弁当のおかずと、何か交換しねぇか?」
と話し続けた。
“俺が唐揚げをあげるまで、コイツ、唐揚げ唐揚げって言い続けるだろうな…”
と悟り、俺は再びため息をつきながら、唐揚げを1つ、武田の弁当に放り込んだ。
「マジか? ありがとう!」
と驚きの表情と満面の笑みを浮かべ、唐揚げを食べてる武田の姿はまるで、大好物に大はしゃぎする子供のようだった。思わず笑いがこみ上げる。
「なんだよ?」
と言ったつもりなんだろうが、武田の口に入っているご飯のせいで全く聞き取れない。思わず
「子供みたいだな」
と笑いながら言うと、武田は頬を赤らめて、
「うるせぇ!」
と肩を小突いてきた。恥ずかしそうにする反応が面白くて、
「ほらよ」
と言って、武田の弁当にもう一つ、唐揚げを放り込んだ。すると、武田は嬉しそうな顔をして
「おぉ! ありがとな!」
と礼を言った。武田は唐揚げを美味しそうに頬張りながら、
「でもよ、お前は俺のおかず、食わねぇのか? なんか俺だけ貰ってばっかで悪いからよー」
と言い、貰ってばかりでは少しばつが悪いというような表情をしていた。
“なにか貰った方がいいな”
と考え、武田の弁当のおかずを物色したが、武田の食べるスピードが早いせいで、おかずは殆ど残っていなかった。だがその弁当の中で唯一、未だに手がつけられていないサラダが目に入った。
“コイツ、野菜はあまり好きじゃないんだな。本当に子供みたいだな”
と思い、軽く笑うと、
「そのサラダくれよ」
と全然減っていないサラダを指さした。武田は
「は? サラダ? ……だったら、サラダの他になにか食えよ」
と言ってきたが、
「実は俺、サラダが好きなんだよな」
と言って武田のサラダを食べはじめた。
「おーい、本当にサラダだけでいいのか? 全部食っちまうぞ?」
と武田は俺に確認を取ったが、俺が答える前に武田は既に食べ始めていた。急に武田をからかいたくなり、ついさっき食い終わった
「きんぴらごぼうも食べたい」
って言うと、武田は
「…すまん。 …もう食っちまった」
としょんぼりして言った。俺は、その反応が可愛くて、ニヤけてしまった。
“なんでニヤけてんだよ”
と自分でツッコミを入れながら、
「冗談だよ、気にすんな」
と武田の肩を叩いた。
「じゃあ、明日も親父特製のきんぴらごぼう、作って入れてもらうから、そん時でいいか…?」
武田はまだ落ち込んでいる様子だった。まだ冗談をまだ信じてるみたいだった。
“案外純粋なやつなんだな”
と思うと、からかったことに少し罪悪感を感じ、
「俺の明日の弁当も、唐揚げ入れてくるから、その時にまた交換しような?」
と言った。すると、武田は
「明日もお前ん家の唐揚げ食えんのか? よっしゃ!」
と無邪気な笑顔で喜んだ。
「そんな嬉しそうにすんな」
と少し俺が照れ気味に言った。
「そんなに好きなら親父さんに入れてもらえばいいだろ?」
と俺は弁当の最後の1口を口に放り込む。武田は両手を頭の後で組みながら、
「いやー、人から貰う唐揚げが食べてぇんだよな。だってさ、同じ唐揚げでもよ、揚げ加減とか…」
といきなり唐揚げの事を力説し始めた。
「わかったわかった」
と言って、武田の話を遮り、
「このまま、昼休みがお前の唐揚げのスピーチで潰れるのは御免だからな。食って終わったら、さっさと自分のとこに戻れ」
と武田を追い払った。武田は自分の席に戻りながら
「お前ん家の唐揚げは最高だぜ!」
と俺の弁当の唐揚げを賞賛してくれた。
“なかなか可愛いところ、あるんだな”
と思ったのは、俺だけの秘密にしておこう。