真相〜featuring 武田〜
「お前、キスされたのも知ってんのか?」
「一応は」
山本は微笑みながら答える。
「おいおいおいおい!」
俺は混乱してしまうが、出来るだけ落ち着いて考えることに集中した。
「お前はキスされた事を知ってんのに、なんで抵抗しなかった?」
「俺を襲わなかったからかな? よく分かんないんだよな」
「なんだよ! その曖昧な感じは!」
「いや、自分でも分からないんだよなー」
山本は頭を掻きながら答える。
「でも俺がお前を押し倒した時、口も聞いてくれなかったじゃねぇか!」
「あれはー……思い出すと恥ずかしいからだよ」
山本は少し照れながら微笑む。
「じゃあ、ついさっきの件は?」
気まずい雰囲気を出した原因の行いに関して聞いてみる。
「いや、俺が反応してるのを見られて引かれたかな? って……」
「そんな事かよ!」
俺はつい大声で言ってしまう。
「そんな事って、俺には大事だぞ?!」
「気まずくなるから俺は嫌われたかと思ったぞ?!」
『まーまー、落ち着いて』というジェスチャーを両手でしながら、山本は
「そんなことあるわけないだろ?」
と否定する。
「じゃあ、何しに出かけてたんだ?」
「それだよ、それ」
山本は俺がさっきまで手に持ってた料理本を指さす。
「これが……何だ?」
俺には全然話が見えなかったが、
「お前、豚肉が食べたいって言ってたから豚肉を使おうと思って」
確かによく見ると、豚肉で何か野菜を巻いているものだった。
「それに使われてる調味料が無かったから買いに行ってたんだよ」
と言って手元のマイバッグから赤黒い瓶を取り出す。
「なんだ? それ」
「コチュジャンだよ」
山本はコチュジャンと他のものも仕舞いながら話を続ける。
「コチュジャンなんてあまり使わないから買ってなかったからよ」
「でもなんで一言言わねぇのか?」
「お前は長風呂するやつだと思ってたから、お前が上がる前には帰って来れるだろうって」
山本は少し申し訳なさそうな顔をする。
「取り敢えず……嫌ってないんだな?」
一応確認をしておくが、返ってくる言葉は予想通りだった。
「もちろんだろ?」
俺はその言葉が聞けただけでだいぶ心が楽になった。
心が楽になったせいで急に疲れと睡魔が俺を襲う。
大きく欠伸をした俺を見て
「な、眠いよな。さっさと寝ようぜ?」
と言って山本は押し入れから枕をもう一つ取り出す。
「お前はこれを使え」
山本は俺に枕を手渡し、ベッドに誘導する。
「なー、お前はどうすんだ?」
俺は布団の中に入りながら聞く。
「俺は机の上を片付けてからだな」
「いやいや、そうじゃなくて」
俺は起き上がりながら
「どこで寝んだよ?」
「ベッドだけど、嫌か?」
山本は平然と答える。
「嫌じゃねぇよ」
俺は慌てて否定し、
「念のためだよ、念のため!」
と言って俺は再び横になる。
「やっと終わった」
山本が俺の隣で横になる。
「この時期に布団かぶって暑くないか?」
山本の素朴な疑問に
「布団かぶってねぇと寝れねぇーんだよ」
と答える。
「ガキか」
と鼻で笑う山本に
「お前だって何かそういうのがあんだろ?」
と言い返すが、
「知らんね、そんなもの」
と言って質問をはねつけられる。
「なー、お前さ」
「ふゎぁー……寝ないのか?」
いろいろ聞きたいことだらけなのだが、山本は欠伸をしながら俺の話を遮る。
「そうだな、眠いしな。寝ようぜ」
そう言って俺も目を閉じた。
始めは山本が居たら眠りづらいと思ったが、逆に何も心配することもなく、すぐ眠りにつくことが出来た。