問答〜featuring 武田〜
「お前、服も着ずにこんなことするって本当に大胆だな」
俺は笑いながらそう言うと、山本は俺から布団を勢い良く奪い取り、それにくるまってベッドの反対方向の壁に座り込む。
山本にそういう気が無いのは重々承知だが、それでも少し残念ではある。
俺は横になって片肘をつきながら山本を見つめる。
「なんだ違ぇのかよ」
「あ、当たり前だろ?!」
既に赤かった山本の顔が余計に赤くなる。
俺は起き上がり、逃げってった山本の所に歩み寄る。
「そんな恥ずかしい事かよ」
と言って俺は山本の前にしゃがみ込むと、
「当たり前だろ?」
と言いながら俺から逃れようとする。
「でもいつまで経ってもそんなんじゃ困るぜ?」
「いつまでって! 今日付き合ったばっかじゃないか!」
「今日くらいじっくりとお前の全部を見せてくれても良いだろ?」
「馬鹿かお前は! 他のカップルでもこんな事しないぞ!」
「お前と一緒に風呂入ったこともあるし、男同士だから問題無いんじゃねぇか?」
「それとこれとは話が別だろ! お前の事が好きじゃなきゃできたかもしれんけどな!」
そういうやり取りをしている内に、山本を部屋の隅に追い詰める。
それよりも、山本が俺の事を『好き』と言ってくれたことが嬉しかった。
「今俺の事を好きって言ったな?」
「覚えてない!」
山本の顔は赤く染まっていく一方だ。
「お前はこういう風に追い詰められてからしか言わねぇのか?」
「知るか!」
どうやら山本は答えてくれないらしい。
だが、俺にはそれとは別に聞きたいことがあった。
「なー」
「なんだよ」
俺の問いかけに山本は睨みながら答える。
「……お前に触れてぇよ」
俺の発言に山本は恥ずかしそうに目を逸らす。
その様子から怒りは感じなかったが、念のため確認する。
「……駄目か?」
「…………いいや」
山本は少し間を置いて俺の質問に答えた。
“嫌がんねぇのか”
俺はそれを確認できただけで嬉しかった。
俺は山本の頬に優しく触れる。
触れた瞬間、山本は体をビクッとさせたが、俺の手を払い除けたりはしなかった。
「俺さ、お前のことを見てると触れたくて触れたくて堪んねぇんだよ。だが、お前に触れて前みたいに距離を置くハメになるのは避けてぇんだ」
自分でも何故話し始めたかは分からなかったが、この際山本に話した方が楽だと思った。
「自分でも公衆の面前とか、食事中とか触れちゃいけねぇのは分かってんだ。でもよ、お前の仕草・声・表情とかお前の全てが俺を狂わせるんだ」
俺は自分でも何を言っているかはよく分からないし、山本にも通じているかは分からない。
「俺は……お前に嫌われたくねぇ! だから教えてくれ。俺は、お前に触れたりとかする時、お前に確認した方が良いのか?」
と聞くと、山本は急に笑い出す。
「なんだよそれ。別に聞く必要なんて無いから」
「で、でもよ…」
と言いかけた俺に
「俺さ、お前が触れてしてくれたりするの、恥ずかしいだけで別に嫌なわけじゃない。逆に嬉しいんだ」
山本は頭を掻きながら苦笑いする。
多分山本がここまで言ってくれるって事は、かなり恥ずかしさを伴うはずだ。
だが、その答えは有難く、嬉しいものだった。
「ありがとう」
「何がだよ」
山本は素っ気なく答えるが、顔色で恥ずかしさの裏返しなのが見て取れる。
俺はもう一つ、ダメ元ではあるが聞いてみる。
「キス…してもいいか?」