夕飯〜featuring 武田〜
「お前の飯はやっぱ美味いな!」
「ま、料理が好きだからなー」
俺は山本の飯を褒めた後、黙々と食べ進める。
山本の飯は親父の飯とはかなり違う。
親父の飯はよく言えばパンチが効いてるし、親しみやすい味だ。それに比べて山本のものは繊細で味に変化がある。
キャッチボールに例えるなら、親父の飯は全力投球という感じだ。確かに始めはインパクトを感じるが、それに慣れてくると飽きが出てくる。
山本はそれとは違い、一品一品が違う変化球があるにも関わらず、相手の事を考えていてくれて、暴投にはならずに俺の守備範囲に収まってくれる。
「おい、箸が止まってるぞ?」
「あ、あーすまん」
山本に注意をされてふと我に返った。
「何考えてたんだ?」
「いや、お前の飯のことさ」
別に悪いことでもない為、何も隠さずに伝える。
「口に合わなかったりするのか?」
「いやいや、そうじゃなくてだな」
山本が不安そうな顔をするが、俺はすぐに否定する。
「お前の飯って、俺の親父の飯よりも変化球だらけだよな」
「なんだよ変化球って」
俺の答えを山本は笑いながらその意味を問う。俺の華麗な例えが上手く伝わってなかったのが悔しかったが、
「飽きないし、バリュエーションに富んでて毎日食っても大丈夫ってことよ」
「毎日って……どれだけ俺に作らせるつもりなんだよ」
“これから一生”
と答えたかったが、またなにか突っ込まれると話が終わらなくなって飯が進まないので、俺は笑って誤魔化した。
がむしゃらに山本の飯を頬張り腹いっぱいまで楽しんで一息つく頃、山本は未だに食べ終わってはいなかった。
「なー、お前食うの遅いなー」
頬杖をつきながら山本に言うと
「お前さ、味わって食べる事ってできないのか?」
と少しキレ気味の返答だった。
「一応これでも味わってるつもりだぜ? んーでも、親父と飯食ってる時は味わうなんて無かったからなー」
「俺の時は少しくらいゆっくり食べて味わってくれ」
「おう! 任せとけ!」
山本からのお願いに快諾はしたものの、暇である。
俺は立ち上がり、山本の隣に座る。
「おい、自分の所に戻れよ」
「何でだよ」
「俺はまだ食べ終わってない」
山本の少し冷たい態度に少し苛立った俺は
「なー、俺に一口くれよ」
とわざと構ってもらおうとする。しかし、山本はそれにも冷たい態度で
「さっき食べて終わっただろ?」
と言いながら飯を食い続ける。
「あぁ! 何でそんなに冷たいんだよー!!」
俺はそう言って山本に勢い良く抱きつくが、山本が俺を避けようとしたのも重なり、俺が山本を押し倒したような形になった。
“ま、これも悪くないか……”
と思い、山本の両手を拘束すると、山本の顔が少しだけ赤くなるが
「何してんだよ!」
と怒鳴られる。
「お前って冷たいよなー」
「俺が何してるか分かるだろ? とりあえず離せよ!」
“なんか俺だけが暴走してる見てぇじゃねぇかよ……”
そう思った俺は今の状況を少し後悔する。暴走して今まで山本から何も得られてはない。
“なにかしてくれよ”
山本にアクションを起こして欲しかった俺は山本の手を拘束し続けながら山本に提案する。
「俺にキスしてくれたら離してやるぜ?」