彼女~featuring 城之内~
ドアの向こうから他のクラスの女子達が山本のことを教室の窓から見ていた。彼女達は山本のファンで、いつか山本に振り向いて貰えることを願ってるらしい。
“入学して1ヶ月も経っていないのに、こんなファンクラブができるなんて理不尽だ。俺には出来ないのによ……”
と顔面偏差値平均の俺はため息をつく。
「なぁ、山本。あの子達、また来てるぞー」
「あー、あいつらか。城之内、ほっといていいよ」
山本は数学の課題を解き進める。
「良いよなー、お前は。ああやってさ、女子達は毎日お前のこと見に来てくれてんじゃん。だからさ、声くらいかけてやれば?」
と促しても、山本は動かない上にこう言った。
「アイツらが勝手に来てるだけなのに、声かける必要ってあるか? それに…めんどくさい」
最後の本音だけは聞き捨てにはならなかった。
「おいおい、そんな事言って失礼だと思わんのか? この子達を大事にできなきゃ、彼女が出来た時に彼女を大切にすることなんて出来ないな!」
俺は半ギレ状態だった。怒りの1割は女子達を蔑ろにする行為、そして残りの9割は俺の女子に注目されない個人的な嫉妬が抑えきれなかった。
山本は落ち着いた様子でこう告げた。
「あのな、彼女達にいい顔したらさ、俺が困るんだよ。女子同士の抗争に、巻き込まれるなんてゴメンだな。あと、俺には彼女いるから」
………………!!!!!!!!!!!!!!
世界が崩落したような気がした。
「山本!! お前!! リア充だったのか?!!」
俺の心の声がそのまま外に漏れる。
「ああ、2年付き合ってる」
山本は至って冷静だ。
「こ、この裏切り者め!! 彼女達は知ってんのか?!」
俺は動揺を抑えられないが、
「知らないんじゃないかな。俺はこういう話、滅多にしないし」
と、山本。俺は2度ほど深呼吸をして
「彼女達には話さないのか?」
と尋ねると、
「ならさ、城之内、お前から話してくれるか?」
と山本は数学の課題を片付けながら言う。
「なぁ、ほんとに言っても良いのか?」
と確認をする。
「ああ、これで彼女達が来なくなるなら気が楽になるし、彼女達は他の男の元に行く。それで良いんじゃないかな?」
山本は科学の課題を取り出しながら言う。
「な、な、もしもさ、もしもだけどさ、あの子達が山本に失望して、俺の所に来ても、悔いはないよな?」
という確認にも
「悔いってなんだよ。別に構わない」
と答える。
「………わかった」
そう言って俺は立ち上がった。
「なぁ、すげぇ言いづらいんだけどよー」と俺は頭の後ろを掻きながら、山本に彼女がいる事を山本ファンクラブの子達に説明をした。
“あぁ、泣くぞ、泣くぞ…俺、悪いことしたな………”
と思った矢先、リーダー格の女子が前に出てきて腕を組み、俺を睨む。そして、
「は? 当たり前でしょ? あんなにイケメンなのに、彼女がいないと思ってる、って思うわけ? 私達を馬鹿にしてるの?! いい? イケメンには彼女がいて当然! そんな事で傷ついたりしないわ。それを覚悟の上で彼の追っかけをしてるの。もしうまく行けば彼を、自分のモノにできるかもしれない、っていう願望はあるけどね」
と彼女達なりの格言(?)が飛び出してきた。それには
「へぇー、それなら良かった」
と言いながらも驚きを隠せなかった。すると、
「因みに、山本君の彼女は他校の生徒よ。年は同じくらい。多分あの制服は如月高校のだと思うの」
もうひとりの女子が驚愕の事実を口にする。
「如月高校って名門私立の? じゃあ、ここ程ではないけど、それなりに頭がいいのか?」
という俺の問いに
「そうよ、当たり前じゃない。もしバカな彼女だったら山本君には釣り合わないわ。でも、山本君や私達より頭悪いのは確かよ」
とまた別の女子が答える。
「と、とにかく君たちが本気で彼の事が好きなのはわかった。彼は相手がいるけど、僕なら独り身だし、大丈夫だよ!」
俺がそう言うと彼女達は呆れた顔をして帰りだそうとする。
「ま、待って! 俺、結構一途だし、尽くすほうだから!」
と言い終える前に彼女達は教室に戻っていった。
落ち込んだ様子で席に戻ると、山本が
「デカしたぞ!」
と背中を叩いてきた。
「それ、どういう意味だ?」
テンションが低いまま尋ねる。
「彼女達が帰っていったって事は、ゆっくり課題に取り組めるってことだよ! ありがとな。」
と答える山本。表情はあまり変わらないが、言葉には嬉しさがにじみ出ていた。だが、それでも俺のテンションは下がったままだ。
「なー、落ち込むなって。後でお礼にスタバ奢るからさ」
と山本が励ましてくれたが、所詮リア充の励まし。俺の心には届かなかった。