買物〜featuring 山本〜
「なんか同棲してるみてぇだな」
武田はそんな呑気なことを言いながらカートを押す。
夕食を作るはずが、武田の分の夕食の材料が足りないことに気づいた。
だから今俺らはスーパーに食材を調達をしに訪れている。
「これも買おうぜ?」
武田はカゴの中に豚肉を2パックも突っ込む。
「おいおいおい! 俺の献立をぶち壊す気か?」
俺は親子丼を作るつもりだ。つまり豚肉は必要ない。俺が豚肉を戻すと
「あぁ! ダメだダメだ!」
と言って武田は豚肉を取り、再びカゴに入れる。
「おい! 高校生にもなって、なにダダこねてんだよ! それにな、こっちには予算ってのがあるんだよ!」
と武田を怒ると、武田は財布を取り出し、
「これで予算は心配ねぇだろ?」
と言って野口さんを渡す。
「いやいや、お前から金取るわけないだろ?」
「なら俺が買うから旨いように料理してくれ!」
武田はどうしても豚肉は食べたいらしい。5分くらいの攻防の末、仕方なく俺が折れたが
「買ってもいいけど、俺がレシピは考えるからな!」
そう言って俺は1パック豚肉をカゴに入れると、武田は
「おう! 頼んだぞ!」
と言って追加で1パックカゴに入れるが、
「1パックだけで充分だろ」
そう言って豚肉は1パックで済ませる。
「思いの外買いすぎたな……」
大量の食材とお菓子を見て思わず呟く。
「俺ら二人だったらこれくらい平らげるのは楽勝だろ!」
「いや、なんで今日で全部食べる設定なんだよ」
武田の発言に思わず突っ込む。
キョトンとする武田に
「これは明日の弁当の分もあるんだからな」
と付け加える。
「それって明日の俺の昼飯の分もあるのか!」
そう言うと武田はハイテンションで片付けを手伝ってくれる。
「お前って本当に分かりやすいやつだよな」
と笑うと
「お前が分かりづれぇだけだ!」
と武田はむくれる。
片付けも終わり、夕食の支度をしていると、後ろの方からビニール袋が開封する音が聞こえる。
まさかと思いつつ振り向くと、武田は信じられない行動をしていた。
「おい! 夕食の前にお菓子食べたらダメだろ!」
俺の怒鳴り声に武田は身体をビクッとさせた。
「だって腹が減って死にそうなんだよー。だから一つくらい、な?」
なんて甘えてくるが
「ダメだ! 俺がお前の為に夕食作ろうとしてるんだぞ? そんなに俺の料理が食べたくないのか?」
と言って一蹴する。
「じゃあ半分だけ」
「ダメだ!」
「お前にも食わせてやるから」
「ダメだ!」
「なら一口だけ……」
「ダメだ!」
双方譲らない戦いだったが、
「お前の夕食はお菓子だけで、俺は俺で作った料理を食べるってだったらいいぜ?」
この俺の発言に、武田は
「なんだよ……意地悪だなー」
と呟いて床に寝転がる。
「お前って親父みてぇだな」
武田は不貞腐れた顔で言うと
「お前は幼稚園生並に我慢出来ないよな」
と鼻で笑った。
「そんな事いいから早く作ってくれよー」
と再び甘えてくる武田に
「だったら手伝えよ!」
と武田にも手伝いをさせる。
「おい! つまみ食いしようとするな!」
武田に手伝いをお願いしたものの、何をさせても俺の動きの邪魔になってて少し煩わしかったが、それよりも隙あらばつまみ食いをしようとするのはもっと苛立たしかった。
「腹が減ってるもんは仕方ねぇー」
と武田は開き直るが、もしつまみ食いを許してしまったら夕食の時に食べる物が半分以下になってしまいそうだ。
武田のつまみ食いを阻止しながら料理を完成させた俺は、丼に盛り付ける前に力尽きてしまう。
「おい、武田。 丼に盛り付けて持ってきてくれ」
面倒くさそうな顔で武田が持ってきて貰った料理は親子丼と豚しゃぶサラダと味噌汁だ。本当は普通のサラダにする予定だったが、武田がダダをこねた為、豚しゃぶサラダに変更した。
「お前を構ってた割にはいい感じに出来たな」
「なんだよ、俺がお荷物みてぇな言い方しやがって……ま、とりあえず食おうぜ!」