勉強〜featuring 山本〜
「わかんねぇーよ!!」
「あーうるさいうるさい。 近所迷惑だぞ」
狭い俺の部屋には時々武田の叫び声が響き渡る。
「だから、ここはこの公式を……」
「俺はお前みてぇな魔法使いじゃねぇからよく分かんねぇよ」
「お前なぁ……」
武田はどうやら数学が大の苦手らしい。高校にも推薦入試で入ったわけだが、本人曰く武田の学力では追いつくレベルではないらしい。
「なんで今まで勉強しなかったんだよ」
と俺が突っ込むと
「いやー、勉強どころではなかったからなー」
と武田は床に寝そべる。
「野球忙しかったもんな」
と俺がフォローを入れると
「ちげぇよ!」
と武田は勢い良く起き上がる。
「どっかの誰かが俺の事を誑かしたからなんだよなー」
武田はそう言って天井を見上げる。
「誰の事だよ」
そんなこと分かりきっていたが、敢えて知らん振りをする。
「お前って本当に意地悪だよなー」
武田はゆっくり起き上がり、ほおづえをつく。
「な!」
武田は急に元気になって話しかけてくる。嫌な予感がしていたが、つい聞いてしまう。
「なんだよ」
「俺がこの問題を解けたらお前ん家に泊まっていいか?」
武田の笑顔が眩しすぎるくらい輝いている。
「いいけどよ……この問題、お前には結構難し過ぎるんじゃないか?」
俺は武田が本当に解けるかどうか心配だったが、
「俺の事を見くびんなよ?」
それから10分後……
「解けたぞぉぉぉぉぉおお!」
「うっるせぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
武田の歓喜の叫びと俺の怒鳴り声が響き渡る。
「お前こそうるせぇよ……」
武田は俺が怒鳴ってる間耳を塞いでいたらしい。
「とりあえずこれ見てくれよ」
武田は先程の問題が書かれたページを指でトントンと叩く。必死に消しゴムで消した後が残っていて、頑張って計算したことがわかる。
……いや、違うな……
「お前さ……」
「なんだ? 間違ってんのか?」
武田は心配そうな顔をする。よほど自信があったのだろう。いや、間違ってはないのだが
「公式一つ一つ試していってどうすんだよ!!」
俺の大声に武田は再び耳を塞ぐ。
「こんな効率悪いやり方で試験問題が全部解けると思ってんのか?!」
「悪かった悪かった、すまんすまん……」
俺はただため息をつくしか出来なかった。
「お前さ、こんなんでよくここに受かったよな……」
「中学ん時はシラミつぶしでやってっても余裕だったしな」
と何故かドヤ顔の武田に再び怒鳴りたくなったが、流石に怒鳴りすぎるのも本当に近所迷惑だ。
「このままいったら留年もあり得るぜ?」
「はっ! そんな事俺様に限って……ないから…………だ、大丈夫……」
ドヤ顔で語る武田を“笑顔”で見つめると、武田の声は段々小さくなっていく。
「で、でもよ!」
と武田は俺を見て
「一応正解したんだし、泊まってっても良いよな?」
無邪気な顔をした武田には“ある意味ズルしたからダメ”なんて言えるはずもなく、武田が泊まるのを許可した。