真意〜featuring 武田〜
「は?」
城之内の拍子抜けした顔は面白かった。
「だから、華奈と俺は従姉で、華奈の母親には良くしてもらった事があって、んで母親と会わないかって言われて話してただけ」
山本はさらっと流すが、城之内は付いていけなかったみたいだが、
「じゃあ、俺の早とちりか?」
「そうだな。俺は華奈の事が好きってわけじゃねぇから、奪うも無いだろ? 応援してるぞ」
と山本は笑う。
「な、なら地区予選の時に『好きな人が出来たんだろ?』って言った時には何であんなに慌ててたんだ?」
「知らね」
城之内の質問に答える時、山本は俺の事をチラッと見た気がした。もし山本に、好きな人が居るってことなら、俺の可能性も僅かならあるはずだ、なんて淡い期待を抱く。
「ま、ライバルが減るってのは良いことだ! じゃーな!」
と言って立ち去ろうとした城之内だが、すぐに戻ってきた。
「お前ら二人、また何かあっただろ? いい加減にしろよな!」
「何でもねぇよ! な、山本?」
「あぁ、本当に何でもないから」
と言って城之内を安心させる。
「それなら良いけどさ、席も二人の間に挟まれてるんだからな? 俺の気持ちを考えろよ?」
と言って城之内は屋上から出ていった。
「なー、山本」
「なんだ?」
「お前の好きな人って誰だ?」
そう言って山本の顔を見ると少し赤くなってる気がした。
「教えない」
山本は俺の問いに即答した。
「……俺じゃねぇのか」
思わず心の声が外に漏れる。
「あのさ……」
山本は俺の方を向き、何かを話し始めようとするが
「先に言っておくが、俺の気持ちを弄ばないでくれ」
と釘を刺す。
「こないだは、ごめん」
「別に謝られたい訳じゃねぇよ」
俺は正直、俺の気持ちに応えてくれるか否かだけが気になった。
「あの後めっちゃ考えたけど、俺って今まで最低だったよな」
「俺様を弄びよったしな」
「やっぱりさ……」
山本はそう言ってから少しの間沈黙が訪れる。
「……なんだよ」
「…………こんな事言うの、おかしいかも知れないけど」
山本は深く深呼吸をした。
「やっぱりさ、武田の事が好きだよ」
山本はそう言って顔を真っ赤に染める。
「その言葉に嘘は無いな?」
前は手放しで喜んだ俺も幾分かは慎重になった。
「俺と付き合う、つまり男と付き合うって事だぜ?」
俺は山本の言葉を確かめた。
「うん、俺も付き合いたいなって……」
山本はボソッと言うが、俺にははっきり聞こえていた。
「で、でも!」
「俺とは付き合えねぇってか?」
山本の気持ちが揺れてるように思えた俺は腹が立ってくる。
「男同士って事にまだ少しだけ抵抗があるんだ……」
「だったら止めとけ」
「違うんだ…………経験が無いから…………」
「俺だってねぇよ!」
いつもはクール振ってる山本がオドオドしているのは可愛く思えた。そして山本の初な感じに少しキュンとした。
山本の小さな言動に喜びを感じたり、腹が立ったり不安になったり。それだけ俺の心の中で“山本 倖大”って存在のデカさを改めて実感する。
「なぁ、なんで俺はお前のことがこんなに好きなんだろうな……」
「ん? なんて言った?」
俺の呟きは幸い、山本には聞こえていないようだった。
「教室に戻って昼飯食わねぇと」
と山本に促す。
「あのさ……」
「まだ何かあんのか?」
少し前までは幸せな気分だったってのに、一気に不安になる。
「俺、マトモに恋愛したこと無いから……その…………」
と挙動不審になる山本が更に愛おしく思える。俺はそっと近づき、
「なら俺が教えてやるか?」
と耳元で囁き微笑むと、山本の顔色をリンゴみたいなり、
「別に大丈夫だし!」
と言って屋上から出ていく。
「ツンデレっつーのか? あれは」
これからどう扱ったらいいのか分からなかったが、それも全て受け容れようと決意した。