武田~featuring 山本~
「おい! 山本ー!」
“はぁ…またヤツだ”
と憂鬱な気分になる。外は雲一つない快晴のくせに、ヤツのせいで俺の心はどこまでも黒い雲が覆ってる。でも、仕方の無いことだった。同じ掲示班になってしまったのだ。俺はヤツと同じ班なんて嫌だった。先生が余計なことをしてくれなければ…。
──俺は正直どの班でも良かったんだが、武田ってヤツと同じ班だけは避けたかった。だが、班決めの時、俺は腹痛でトイレに行きたかったんだが、その“用事”が長くかかりそうだった。先生には
「どこでもいいですよ」
と言ってトイレに駆け込んだんだが、『武田と一緒じゃなければ』という大事な事は言っていなかった。それから10数分後、教室に戻ると、
「山本君、顔見知りの人と同じ班がいいでしょ? だから、武田君と同じ、掲示班ね?」
と先生は満面の笑みを浮かべた。俺は呆然とした。
「武田君と? 嫌ですよ! どっか別の班に…」
と言いかけた俺の言葉を遮り、
「そうなの? でも、もうみんな決まっちゃったから…ゴメンね?」
と先生の特技の一つであろう、てへぺろを繰り出した。
「で、でも!」
と反論しようとしたが、
「はーい皆さん、それでは班でまとまって班長を決めてくださーい」
と先生は俺の意見を無視した。──
そして今に至る。
ヤツが
「先生からこれを頼まれたんだけどよー」
と画用紙とマジックペンを机の上に広げ始めた。
“今現在も『お前とは関わりたくないですよ』オーラを出してるのに、お前には関係ないんだな”
と思い、呆れ顔をした。
「これにこの前決めた、クラスの目標と時間割と、あと座席表を書けってさ。でも、目標ってなんだっけ?」
ヤツは俺に目標を聞いてきたが、無視した。
「おい! 無視かよ!」
と怒るヤツに、掲示班の班長になった16番の城之内が
「まーまー、落ち着いて、落ち着いて。クラスの目標は一致団結と、切磋琢磨だろ?」
とヤツを宥めに入ってくれた。
「山本、お前も班の一員だろ? 一致団結しなきゃ、な?」
城之内が俺を窘めたが、俺は返事もしなかった。城之内はため息をつき、
「ま、とりあえず作業しようぜ」
と言う。
「武田と山本は目標を書いてくれ、俺と川谷と野村は時間割とか座席表とかやるからさ。」
城之内は自分たちの作業をし出す。それを聞いて驚いた俺は
「城之内、俺と仕事代わってくれないか?」
と城之内に仕事の交代を提案した。しかし、
「班の中でわだかまりがあるのは嫌だから、お前が武田の事を嫌ってる内は、武田としか仕事をさせない。他の班員と交代も許さない」
と言って断られた。ため息をつきながら、マジックペンを取って文字を書いていると
「へー、山本。お前、字が綺麗なんだな」
とヤツが身を乗り出し感心する。ヤツに
「黙れ」
と言ったが、案の定ヤツは黙らない。
「なー、提案があんだけどさー」
ヤツは話しかけてくるが、ヤツの願いなどを聞くなど毛頭ない。
「断る!」
と否定したが、ヤツは話し続ける。
「俺よりも山本の方が字が綺麗だ。だからさ、お前が鉛筆で下書きをして、俺がマジックペンでなぞればきれいになるんじゃねぇかなー?って思うんだけどよー」
と名案を思いついたヤツはドヤ顔だ。俺は
「知るかよ」
とあしらった。だが、ヤツが書いた目標を見てみると、確かにヤツの字は壊滅的に下手すぎる。結局、俺が折れて、目標の文字を書き、ヤツになぞり書きをしてもらった。
「俺が書いたにしては、上出来だな」
とヤツが自分で自分を褒めるようだから、
「俺の下書きが無ければ、もっと酷いことになってただろうな」
と水を差したのだが、ヤツには効いてないらしい。
「そうだな、お前の協力がなきゃ、こんな綺麗な字は書けなかった。ありがとよ!」
ヤツは純粋な笑顔で俺に感謝してきた。
「そうか、良かったな」
俺は呆れながら言った。
ヤツの笑顔は俺に“ヤツに攻撃的になる理由はどこにあるのか?”と自分に問いたださせた。