問掛~featuring 武田~
俺が部屋でダラダラしている側で山本は晩飯を作っている。そんな山本の姿を後ろから眺めていた。コンロや冷蔵庫などを行ったり来たりして忙しそうだ。
「何か手伝うか?」
俺は忙しく動き回る山元に聞いてみたが
「お前には分からんだろうし、それに俺が動けるスペースが減るから困る」
と随分否定的な答えが返ってきた。そんな答えに少し腹が立ち
「その言い方はねぇだろ?」
後ろから山本にハグをするが、山本はすぐさま俺の顔に裏拳を繰り出す。そして、ちょうど指の関節が俺の目を直撃する。
「目がぁー!」
そう叫ぶ俺に
「危ないだろ! こっちは火と包丁を使ってんだぞ?!」
山本も大声を出す。
「だからって目に当てるかよ……」
俺は小言を言うが、山本は聞こえてないのか、料理をし続けた。
それから大体15分後に、
「これとこれ、テーブルまで持って行ってくれるか?」
山本の指示通り、チンジャオロースが入った皿と玉子スープをテーブルへと運ぶ。
「めっちゃいい匂いだ! お前、中華も作れんのか!」
と興奮している俺に山本は
「そんな難しいものじゃないからな」
そう言いながら茶碗にご飯をよそう。親父が作る料理は大抵ローテーションだ。
「お前のメニューのバリュエーションってどれくらいあるんだ?」
ふと素朴な疑問を投げかけると
「そんな事考えたこともないなー」
なんて答えながら、冷蔵庫から春雨のサラダを取り出す。
「お前って料理の勉強とか、なんかしてんのか?」
と再び問いかける。
「勉強って言うか、俺のその日の気分に合った料理をスマホで調べて、必要であればレシピを参考にして作る」
「真面目なんだなー」
山本の答えに俺は感心するだけだった。
「なー、なんで今日は中華を作ったんだ?」
山本に聞くと
「家にある半額の牛肉を使わないといけなかったし、牛肉を使ったもので作ったことのあるやつは青椒肉絲だから、それに合わせて中華っぽくしただけだ」
山本はそう答える。その答えが、特に『半額の牛肉』が主婦っぽくて、思わず
「主婦かよ!」
と笑いながらつっこむ。山本はそんな俺を見て
「食べないのか?」
呆れたようにため息をつきながら言うと、チンジャオロースを食べ始めた。
「食う食う」
そう返し、俺もチンジャオロースを食べる。
「美味ぇ!」
と思わず感想を口にするが、
「口に食べ物入った状態で大口開けんなよ」
山本は俺に文句を言いながら笑っていた。俺も恥ずかしくなって笑い出す。
それから暫くして、晩飯を食い終わったあと、食器らを片付けて一息ついた後、俺は帰る支度をしていた。
不思議そうに見つめる山本に
「なんだ? 帰って欲しくねぇのか?」
と笑いながら山本に尋ねると
「お前、ここに来た目的、忘れてねぇか?」
山本にそう言われて、はっと思い出す。
「い、い、い、いや! そんな事ねぇぞ?!」
とすぐに否定したが、
「俺が言わなかったら、忘れて帰ってただろ?」
山本はニヤケながら問い詰める。
「ち、ちげぇよ! 俺はお前を試しただけだ!」
再び否定したが
「お前も自分の目を騙す事は出来てないみたいだぞ?」
と言うと山本は意地悪そうに笑った。まるで犯人を追い詰めた刑事のように。
「……わかった。降参降参!」
俺は言って、
「確かに忘れてたけどよ、お前の話聞いてなかったら、またここに戻って来てたはずだ」
と続けた。山本はまたニヤケる。
「次は何でお前の気をそらそうかな?」
「お前がハグしてくれたら忘れるかもなー?」
と俺も負けじと言い返すと、
「誰がするかよ!」
と言って山本は顔を赤くする。
「おい、顔が赤ぇぞ?」
と山本に尋ねると
「飲み物取ってくる」
と勢いよく立ち上がって冷蔵庫に行き、飲み物とグラスを持ってきた。
「まだ赤ぇぞ?」
と薄ら笑いを浮かべた俺に
「そんな事言ってるんだったら帰れ!」
と言いながら俺の前にグラスを勢いよく置く。
「分かった分かった」
と言って、山本を宥める。
山本にベッドに腰掛けるよう促され、座る俺の隣に山本も座る。俺は深く深呼吸をして、真剣な眼差しで山本に向き合う。
「何があって、今どう感じてんのか、教えてくれ」