混乱~featuring 山本~
武田からの止まらない着信には気づいていたが、俺はそれには応じなかった。そもそもバスや電車に乗っている俺が電話に出られるはずがない。それに、今は誰とも話したくない気分だった。誰かに側にいて欲しいとは思うが、話したくない。でも心のどこかでは、誰かに話したいと思ってるところもある。矛盾だらけな自分自身の考えを鼻で笑い、スマホをポケットにしまった。
俺は典子と別れたかった。実際別れられて良かったと思っている。遅かれ早かれ別れることになっていただろうし、それなら早い方がいい。
だが今、心の中にある後悔のような気持ちと、自責の念が渦巻いている理由がわからなかった。俺自身、この気持ちをうまく説明することは出来ない。
そんな複雑な気持ちのまま、俺は駅に着くと自宅では無いところへ向かった。気が向くままに歩き、気がつけば公園のベンチに座っていた。
目の前には小学生低学年くらいの子供たちが遊んでいる姿があった。その子供たちのグループで紅一点の女の子が周りに負けないくらいの速さで公園を駆け回る。その子を見て俺は典子を思い出す。
典子も俺ら男子グループの中で唯一の女子だった。俺はその関係は変わらないものだと思っていた。ずっと子供たちのグループのように、良き友達、良き親友として居られると思っていた。
「どこで間違ったんだろうな」
なんて呟く。今の心情は説明しようがない。
それから十数分後、ふとポケットに手を入れるとスマホが手に触れる。
“そういえば武田のやつ、どうしてるかな”
と思いながら電源キーを押すが、画面は真っ暗のままだ。
「クソ、電池切れかよ」
俺はつい、悪態をついてしまう。昨日武田の家に泊まって充電するのを忘れていた。
「家に帰れってかよ」
ボソッと言い俺は帰路についた。
アパートの階段を登り廊下を曲がると、俺の部屋の前には人の姿があった。俺にはそれが一目で誰かわかった。ため息をつきUターンしようとすると、相手は俺の存在に気付き、
「おい! 山本!」
と叫ぶ。俺は聞こえないふりをしてそのまま来た道を戻ろうとするが、
「おい! 無視かよ!」
と走って追いかけられ肩を掴まれる。
俺はその手を振り払い、振り返り怒鳴る。
「離せよ!」
「なんで俺の電話取らねぇんだ?」
武田は呆れたような顔をしていた。
「取りたくなかっただけだ」
俺は武田と目を合わせなかった。いや、合わせられなかった。
「こういう時くらい頼ってくれたっていいだろ?」
武田を腕を組む。
「こういう時ってどういう時だよ」
武田が典子との事を知らないと思い、そう質問を返したが
「彼女と修羅場ったんだろ?」
武田の声は悲しそうだ。
「なんで知ってんだよ?! なんだ、城之内か?!」
俺が叫ぶと、武田は首を横に振り、
「親父が見たって言ってたんだよ」
と答える。
「別に、何でもないから帰ってくれ」
と武田に帰宅を促すが、武田は一向に動こうとしない。
お互い立ち尽くして数十秒、
「聞こえなかったのか? 帰れ!」
俺が怒鳴ると
「俺はお前から話を聞くまでは帰らねぇ!」
武田も怒鳴り返す。
「勝手にしろ!」
俺は武田を睨み、部屋に入って鍵を閉めた。