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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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偽証~featuring 伊集院~

「全然ダメじゃない」

 典子は頬杖をつきながら自分のチームをブーイングする。

 それもそのはず、一回表で4点も取られちゃっていたらブーイングもしたくなる。でも、試合がどう流れていたのかは頭に入っていなかった。

 “典子と彼氏、そして彼氏の相手を守らないと”

 典子にどういう風に伝えれば穏便に済むかを必死に考えていたら、一回表が終わってたって感じ。

 「ねー、華奈。 聞いてる?」

 典子は私の身体を揺さぶりながら問いかける。

 「聞いてる、聞いてる! だから揺すらないで!」

 と典子を落ち着かせた後に

 「まだ始まったばかりだし、逆点も有り得るんじゃない?」

 と心にも無いことを言った。

 「私はダメだと思うなー」

 と言いながら前を向き直す典子を見て、小さくため息をつく。

 “さて、どう伝えようか……”

 私は頭の中で色んなシチュエーションを考え、シュミレーションを開始した。普段はこんな想像力は私の趣味でしか使わないけど、もし何かあって典子が捕まっても困るし、友達だから何とかしてマトモに別れられるよう、必死だった。

 女子と一緒にスタジアムを出ていた場合、人を待っている様子が見られた場合、彼氏の行動が挙動不審になった場合等、いくつもの、中には有り得ないシチュエーションまでをも想定し、上手く切り抜けられるよう、色んな台詞を考えた。

 そんな事を考えていると

 「華奈ー。 コールドゲームになって負けちゃったみたい」

 と典子が『情けない』とでも言いそうな顔で言う。

 「えっ?! 嘘?!」

 あまりにも早すぎる試合終了には驚くしかなかった。だって、まだ全部のシュミレーションは終わってないから。

 「何見てたの? 逆点なんてしないし、逆に超打たれてるし、ダメダメだったんだよ?」

 という典子の言葉に

 「ごめん、ずっとボーっとしてた」

 と返す。すると典子は

 「もしかして、また妄想してたの?」

 とニヤケながら聞いてくる。

 「な、何も妄想なんてしないよ?!」

 と返す。一瞬、シュミレーションの事かと思ったけど、そうでも無さそう。

 「この試合の後にお互いを慰め合うために〜、とかって考えてるのかと思った」

 典子は『つまんない』とでも言いたげな顔をして言う。

 「ま、そんな妄想してても私は否定したりしないから」

 と典子は微笑む。

 「言っておくけど、そんな事は考えてないからね? あ、みんな帰ろうとしてるから、行こ?」

 と話を変え、そそくさとその場から退散する。

 

 「華奈」

 「んー?」

 私が典子の呼びかけに答えると

 「例の約束、覚えてる?」

 と聞いてくる。

 「覚えてるよー」

 と返すと

 「じゃあ、ここで待っとこ?」

 と会場の入口前で待ち伏せすることになった。

 それから少しすると、男子が

 「いや、山本!」

 という声がした。典子はその名前を聞くと、私に『着いてきて』と合図をする。ため息をつきながら典子に着いていくと、典子は

 「倖大」

 と声をかける。すると、

 「何の用だ?」

 倖大と呼ばれた男子が不満げにこちらを見る。典子は腕を組み、

 「倖大の好きな人を連れて来て!」

 典子は怒鳴る。

 「お、おまっ! 浮気か?」

 「典子! 落ち着いて!」

 私と相手の男子が同時に叫ぶ。

 「おいおいおいおい! みんな落ち着け!」

 と場を落ち着かせようとする彼氏の声はどこかで聞き覚えがある声だった。顔は典子に写真を見せて貰ったから分かるけど、声を聞いた事はなかった。なのに、知ってる。そのことが頭に引っかかってたけど、

 「とぼけないで! 好きな人がいるから私を捨てようとしてるんでしょ?」

 と典子の叫び声でハッとする。そして頭の中でシュミレーションしていた台詞を典子に言う。

 

 「多分好きな人、いないよ?」

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