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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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山本~featuring 武田~

俺が今居る少し古い体育館は年季を感じさせた。今挨拶をしている校長先生よりは年下だと思うのだが、校長先生の方が遥かに若く見える。ま、そんな校長先生の挨拶や、他の人の歓迎の言葉だったりっつーのは、あまり聞いていなかった。その理由は朝のことのせいで、俺が不機嫌だからだ。

 “俺は遅刻する可能性もあったんだ。それなのに俺は助けた。あの『田舎者』を。礼くらい言ってくれても良いんじゃねぇか?それに名前も教えてくれなかったし。アイツこそ頭いかれてんじゃねぇのか? もしかして、アイツ変な名前だから言いたくねぇとかなのか?

よし、帰るときに絶対アイツを見つけて礼を言わせてやる! ついでに名前を聞いてやるか”

 と考えてた。思い出すだけでもイライラするし、早くアイツを見つけ出したいが、今は大人しく話を聞いてるしかない。

 “そういえばアイツ、学校の方向が違うって教えた時、顔真っ赤にしてたな”

 という事を思い出してふふっと鼻で笑った。

 長々とした入学式のプログラムが終わり、遂に教室に行けることになった。

 「疲れた…」

 と呟きながら席についた。入学式の長ったらしい話で疲れていた俺は机でうつ伏せで寝ていた。暫くして、担任の先生の

 「皆さん、起きてください!」

 との声が聞こえ、指示に従った。 

 

 「今日から1年7組の担任になりました、高橋 恭子です。宜しくお願いします」

 と担任が挨拶する。若くて可愛いし、なんと言っても優しい感じの先生だった。クラスの男子の何名かがお互いの顔を見合わせ、嬉しそうな顔をしてるのが見えた。

「ここで早速ですが、皆さんに自己紹介をして頂きます。では、1番の方から黒板の前で自己紹介をお願いします」

 と先生は自己紹介を促す。クラスメイトの名前なんて仲良くなってから覚えれば良いだろ、と思ってあまり聞いてなかった。だが、15番のヤツが黒板の前に来た時、俺はつい

 「あ、お前!」

 と言ってアイツを指さし、立ち上がってしまった。

 俺には適わないかもしれねぇが、田舎っぽくなく、整った顔をしている。きっと女子からモテるんだろう。髪は清潔感がある短髪で、身長は見たところ170くらい。体格は悪くなく、ヒョロヒョロという訳ではない。以上の条件から間違えようがなかった。アイツだ。

 「17番さん? 座ってくださいね?」

 と先生に窘められると、クラスメイトの数名がクスクス笑う。

 「静かに。では、15番さん、どうぞ」

 と言われ、アイツは自己紹介を始めた。

 「山本 倖大です。好きな事は特に無いです。宜しくお願いします」

 アイツは緊張しながら自己紹介をした。

 “へー、山本って言うのか。変な名前でも無いのに、なんで教えてくれなかったんだ?”

 と疑問が残ったものの、名前が聞けた事を満足していた俺がいた。

 “それにしても随分無表情だな。緊張してんのはすぐわかんだけどよ。でも、朝は怒り全開だったな”とアイツが車内で感情を出していた事には違和感を抱く。

 「16番の城之内 慧さん、ありがとうございました。では、17番さんお願いします」

 と先生に指名され、黒板の前に立った。

 そして俺は山本のヤツを睨みながら

「俺は武田 俊哉って言います。好きな事はスポーツする事、特に野球っす。宜しくお願いします」

 と自己紹介をした。席に戻る途中、アイツの耳元で「後で話したいことがあるからな」と囁くが、アイツは鼻で笑いやがった。どうやら聞いてはくれなかったようだ。

 

 そこからまた長いHRが始まり、終わった。みんなが席を立ち始めると、アイツはすぐに教室を出た。俺は

 「おい! 山本、待てよ!」

 と言って追いかけた。

 「おい、山本。」

 アイツはため息をつきながら振り向く。

 「なんだ? お前、朝の事で俺に話しかけに来たのか? それなら話す事は無い。以上。」

 そう言うと、回れ右して歩き始める

 。「おい! 礼も何も言わないのかよ!」

 俺が怒鳴るとアイツは歩くのを止めた。そしてため息をつき、俺の方へ歩きながら、

 「朝の事は悪かった。…俺もイライラしてたんだ。だから…その…すまなかった。………んで、ありがと。」

 不機嫌そうな顔で言う。

 “なんだよ、ちゃんと言えんじゃんかよ。”

 と感心していたのもつかの間、アイツは

 「どうだ? これで満足か?」

 とさらに不機嫌な顔になる。

 「なぁ、最後の言葉は胸にしまっとけば良かったんじゃねぇか?」

 感心した俺が馬鹿だった、と思いながら、そう言うと

 「話は終わったみたいだな、俺は帰る。用事があるしな。」

 「話はまだ終わってねぇぞ! おい!」

 だがアイツはそそくさと帰っていった。


「なんだよ、アイツ…」

 俺は呆れたが、なぜかアイツの事は嫌いにはなれなかった。

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