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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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応援~featuring 山本~

典子と分かれた後、俺のファンクラブの子たちから逃れて、城之内と一緒に観覧席に座った。

 「あの向かいのどこかにお前の彼女がいるんだろ?」

 城之内は典子がいるであろう、向かいの観覧席を指さしながらニヤけた顔で俺の耳元で囁く。

 「なんか気まずいよなー。よりによって彼女の学校と戦ってるなんてな」

 ふざけた調子で言う城之内に本音を呟く。

 「あ、俺さ、彼女と別れたいんだよね」

 城之内のニヤケ顔が一変、目を最大に見開き、拳一つ入りそうな程大きく口を開ける。

 「はぁ?」

 隣で大声を出され、俺は慌てて城之内が掛けてるタオルを城之内の口に突っ込んだ。

 「静かにできないのか?」

 俺は小さい声で城之内に怒る。

 「おいおいおいおい! だってよ?」

 城之内はそう言った後、

 「なんでだよ! なんで別れたいんだ? それに、この非リア充の俺様に何を言ってんだよ。『非リアの世界へようこそ~』とでも言ってあげるか?」

 呆れながら言う。俺は

 「俺は彼女の事を彼女として好きじゃなかったんだよ」

 さらっと言うと、

 「なんだそれ? じゃあ、なんで付き合ったんだよ」

 城之内は不思議そうに尋ねた。

 「んー、関係を壊したくなかったから、かな……」

 と少し間を置いて答えると

 「でもそれで付き合うんだったら別れる事を選ばなくても良くないか?」

 城之内はまた尋ねる。

 「相手との関係を考えて付き合ったけど、やっぱり無理なんで別れますってのは、ただのワガママだと思うぜ?」

 城之内は核心に迫ってくる。

 「まぁ、そうだよな……」

 俺はため息混じりに答えた。

 

 「お前がそんなワガママなことを言うって事は余程なことだと思う」

 と城之内は言う。そして城之内はニヤケながら

 「好きな人が出来たんだろ?」

 と聞く。

 「うっせぇ! 違うし!」

 と言って城之内の肩を殴るが、城之内は涙を浮かべ、腹を抱えながら笑っていた。

 「お前って、意外とわかりやすいんだな」

 笑いが収まった城之内はそう言った。

 「はぁ?」

 と冷静振るが、内心は好きな人がいるって事を悟られないようにするので必死だった。

 「いや、いいことだと思うぜ?好きな人と一緒に居れたらそれ以上の幸せはなかなかないだろ?」

 と城之内は宙を見つめながら言う。

 「そうかもしれんが、俺が彼女と別れたいって思った理由はそれとは別だからな?」

 とりあえず釘を刺して置いたが、城之内は聞いてない感じだった。

 

 武田が投球練習するや否や、黄色い歓声があがる。調子に乗った城之内もわざと声を真似て

 「武田くぅーーーーーーん!!!!」

 と叫ぶ。隣で騒がれた俺は思わず耳を塞いだ後、城之内の頭を叩く。

 「痛っ!」

 と頭を抱え込む城之内の耳元で

 「さっきからうるせぇよ! 静かに出来んのか!」

 と怒鳴る。

 「わかった、わかったから……。 もう叩かんでくれよ?」

 城之内は涙目で懇願する。

 「騒がないんだったら叩かないでおくよ」

 と言い、前を見つめて座る。

 

 「頑張れよ、武田」

 俺のその呟きは、観衆の声や音にかき消された。だが、武田の心にだけは届くよう、精一杯の想いを込めた。

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