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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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不安~featuring 山本~

“物凄く気まずい”

 俺は針のむしろにいるような気分だ。昔の人はこのような状況をうまい具合に言葉にしたものだ。俺は広く寛げるはずの車内で、小さく縮こまっていた。俺の横では典子はずっとスマホをイジっている。典子のお父さんは俺らのことをチラチラ見ながら運転している。別れ話を切り出した俺と、その彼女、そしてそれを知らないであろう彼女の父親、この3人が同じ空間に居るのだから仕方の無い事だろう。

 「倖大、最近はどうか?」

 彼女のお父さんはバックミラーをチラ見しながら俺に聞いてきた。

 「あー……最近っすか? 可もなく不可もなくって感じです」

 と典子を気にしながら答える。典子が反応を示す事は無いが、それでも気になる。

 お父さんはすぅーと息を吸い込み、

 「最近2人はどうだ?」

 と尋ねた。

 その質問に戸惑う俺の隣に座っている典子の反応は早かった。“2人”という単語が出た瞬間にシートベルトをはめ、

 「もうダメだよ」

 さらっと答えた。

 急ブレーキを踏むお父さん。前の座席に叩きつけられる俺。

 「な、何だって?」

 「私と倖大はうまくいかなかった。ただ、それだけよ」

 と父親の問いに何事もないように答える。

 「倖大、うちの娘のどこが悪かったのか?」

 と真剣な面持ちで尋ねる。俺は

 「いや、典子は悪くないんです。ただ、俺が友達のままで居たいと思っただけなんで……」

 と仕方なく本音を打ち明けた。

 「それは幼馴染みに戻りたいって事か?」

 「…………はい」

 お父さんは俺の答えを聞き、ため息をついたが

 「仕方ないな」

 と呟いた。

 その発言に俺が驚いたのはもちろん、典子は口をあんぐりさせて驚いていた。

 「典子、それは残念だったな。だが、お父さんも上手くいく気はしてなかったんだ」

 と話し始める。

 「なら、、なんで俺と典子が付き合う時は、あんなに喜んでいたんですか?」

 と俺が問いかけると

 「そりゃ、嬉しいさ。典子が好きな人と付き合えるのは嬉しいことだ。典子は倖大が他の女子と話すだけでも嫉妬してたからな。

 だが、倖大の気持ちも分からないでもない。実はな、俺も倖大たちと同じ事があってだな。“好き”の違いに気づいて、それを当時の彼女に話すと大喧嘩になった。今思えば懐かしいよ」

 と返答する。

 すると典子は重い口を開き、訊ねる。

 「じゃあ、誰がその“好き”の違いに気づかせたの?」

 「好きな人、だな」

 お父さんは即答する。その答えを聞き、典子は俺の身体に風穴を開ける勢いで俺を睨みつける。俺は慌てて

 「好きな人が出来なくても、気付くことってあります……よね?」

 と典子の痛い視線を気にしながらお父さんに聞くと

 「ま、それもあるな」

 と答える。俺は少し安心して肩をなでおろしたが、典子の視線は未だに痛いほど感じていた。

 

 それから5分ほどで目的地へと到着した。

 「お父さん、ありがとうございました」

 と典子のお父さんに会釈をし、車から降りた。お父さんの車が去っていくのを手を振りながら見送った。

 俺は典子の方に向き直って

 「俺らの集合場所はあっちだから」

 と言ってさっさと行こうとしたが、

 「お父さんが分かってくれたからって調子に乗らないでよ!」

 典子は俺を指さし、プイッとして人混みの中に消えていった。

 

 「何をどうしたら調子に乗れるんだよ」

 ボソッと呟いた俺も、人混みの中に向かった。

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