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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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推測~featuring 山本~

「山本、起きろ!」

 俺は武田に揺すられ、目を覚ます。

 「おはよう」

 と目を擦り重たい瞼を開けると、武田は既に着替え終えていた。

 「おい、お前いつ起きたんだ?」

 と聞いたが、

 「ほら、早く準備しろ!」

 と急かされる。

 俺もさっさと身支度をして食卓につく。

 食卓には武田の親父さん特製の朝食が出されていた。白米とチキンカツ、味噌汁。見た目は至って普通の朝食だが、なぜか心が温かくなる。武田の親父さんが

 「君の口に合えば良いんだが……」

 と心配するが、

 「とても美味しいですよ、ありがとうございます」

 と笑顔で返した。親父さんは

 「それは良かった」

 と微笑んだ。

 俺らが家を出る間際

 「良かったら弁当も持って行きなさい!」

 と親父さんは、大盛りの弁当を手渡してくれた。

 「ここまでして頂いて……。本当にありがとうございます!」

 と礼を言い、弁当を受け取った

 「いやいや、良いんだよ。またコイツが忙しくない時にでも遊びにおいで」

 と照れながら俺らを見送ってくれた。そんな親父さんに笑顔で

 「行ってきます!」

 と手を振った。

 

 俺ら2人並んで歩きながら、

 「なー武田」

 と武田を呼ぶ。

 「なんだ?」

 と返事した武田に

 「初めてだな」

 と言って微笑む。武田はキョトンとするだけで、何が初めてなのかが分かっていないようだった。

 “俺に言わせんのかよ……”

 と思いながら

 「学校、一緒に行くことだよ……」

 と言った俺の顔は赤くなっていることが自分でもわかる。武田はそんな俺を見て

 「そうだよな! 初めてだよな! でもよ、なんで顔が赤いんだ?」

 と意地悪そうに笑う。

 「うるせぇ!」

 と言って武田を殴り俺が走りだすと、武田も俺を追いかけて走り出す。武田は走っている俺に追いつき、後ろから抱きしめた。

 「おい! 離せよ!」

 ともがきながら恥ずかしがってる俺に

 「本当はこうして欲しかったんだろ?」

 と言って、さっきよりも俺のことを強く抱きしめる。

 「は・な・せ・!」

 と武田のスネに後ろ蹴りを食らわせて、武田の腕から逃れる。

 「何で蹴るんだよ!」

 と喚く武田に

 「早く行かないと遅れるぞ!」

 と本当は遅れはしないけど、走りながら急かす。

 「あぁ、クソ!」

 と言って武田も走り出す。

 

 俺がいつも通学してる電車は常に混んでいて座席に座れるわけがないのだが、始発というだけあって、わりかし余裕があった。

 「ふぁぁ~あ」

 と大きめのアクビをした俺に

 「試合中に寝るんじゃねぇぞ?」

 と武田に釘を刺される。

 「誰が試合中に寝るかよ」

 と言いながらまたアクビをすると、武田はため息をつき、俺の口に眠気覚ましのタブレット菓子を投げ入れる。だが、運悪くそれは俺の喉に入り込む。

 「ごほごほっ!の…どに入っ……ごほごほ!」

 と噎せる俺に

 「悪ぃ! 大丈夫か?!」

 と背中を摩ってくれる武田を

 「お前なぁ!」

 と涙目になりながら睨む。

 「悪かった。その……喉に入るなんて思わなくて」

 と武田は素直に謝る。

 「なんで人がアクビしてる時に、口にものを入れるんだよ!」

 武田に聞くと

 「だって……俺の試合中に寝てもらったら困んじゃんかよ」

 としょんぼりする。

 「あのなぁ……」

 と言いかけたが、武田の落ち込んだ様子を見てしまうと何も言い出せなくなる。

 「お前の試合中は寝ないから。安心しろよな」

 と武田の肩を叩く。武田は

 「約束だぞ?」

 と言って手を差し出す。なぜ握手するかは不明だったが、とりあえず握手すると、武田の顔が赤くなった気がした。


 武田が練習行くのを見送り、練習を軽く眺めた後、俺は学校を後にした。駅に向かい、電車に乗って5駅通り過ぎたら、それからバスで移動。そうすれば会場に行ける。

 うん、完璧だ。誰かが車を出して送迎してくれたら楽なのだが、そういう事をしてくれる人が身近に居ないため、少々不便ではある。

 駅に向かって歩いていると、スマホが鳴り出した。着信音でわかる。この音楽は典子からだ。ため息をつき、電話を取る。

 「もしもし?」

 「倖大、おはよう」

 いつもなら“倖ちゃん”と呼ぶのに、“倖大”と呼んだ、という事は

 “友達に戻るのを受け入れてくれたのか”

 なんて思ったが、典子の事だ。何があるかは分からない。とりあえず、

 「おはよう」

 と返すと、

 「倖大、今どこ?」

 と聞かれた。

 「何で俺の居場所なんか……」

 「会場まで送って行ってあげる」

 と言われたが、気が乗らない。

 「いいよ、もう駅に着いたし」

 と言うと、

 「いいや、何が何でも送らせて」

 と声こそは落ち着いているものの、その声には怒りが見えた。ここは取り敢えず従っておいた方が無難だと思い、

 「わかった。じゃあ、鹿野高校の最寄りの駅にいる。場所は分かるな?」

 と言うと、

 「わかった。すぐ向かう。」

 と電話を切られた。

 

 俺は典子を待っている間、とても不安だった。典子のお父さんが送ってくれるんだろうが、もし典子との間の事で何か感づけば、根掘り葉掘り聞かれる事は間違いない。それも車内だとかなり厳しい。

 “さっきの選択は無難ってより多難だな……”

 と後悔した。

 そんなことを考えていると、典子のお父さんの車が見えた。シルバーのSUV。いつもならSUVのカッコよさに見惚れるとこだが、今は違う。冷や汗が止まらない。

 「倖大! 乗って!」

 と典子が窓を開け、車内から大声で叫ぶ。俺はSUVに乗りこみ、典子のお父さんに挨拶をした。

 「お久しぶりです、おはようございます」

 と微笑んで会釈をすると

 「おぉ、おはよう、久しぶりだな! 元気だったか?」

 と声をかけてくれた。バックミラー越しに見えた典子のお父さんの顔は笑顔だった。

 「はい、元気でしたよ」

 

 “典子のお父さんが気づいていないのであれば、ひとまず不安が一つ減ることになる”

 と一安心し、肩をなでおろした。

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