邂逅~featuring 山本~
“やばい、予習したはずだろ…?”
俺は今、とても…やばい状況なんだ。人が忙しく行き交う中、一人ICカードを握りしめ、焦っていた。
今日は高校の入学式がある。遅刻するわけにはいかない!だが…
“駅で迷った…”
そう、俺は駅に入った瞬間、あまりの人の多さに戸惑い、迷子になってしまった。これで駅員さんに
「道に迷った」
なんて言えば、ド田舎者ってバレてしまう。でも、遅刻するわけにはいかない…。どうしよう………。少しの間自問自答し、結局駅員に尋ねるという結論を出し、人混みを掻き分け、歩き始めた。
すると、
「電車、分からないんだったら、手伝おうか?」
と後ろから声をかけられた。振り向いて見てみると、声の主は俺より少し背が高く、端正な顔立ち、良い体格で小麦色に日焼けしている青少年だった。恐らく野球部で、俺と同い年であろう。
「いや、大丈夫です…」
俺は断ったが、
「でも、さっきからあっち行ったりこっち行ったり…、明らかに迷子じゃないのか?」
ヤツは核心を突いてきた。そして俺の制服を見て、
「それにその制服、俺の制服と一緒だから、多分、鹿野高校に行くんだろ?それなら10分後に来るやつまでに乗れなかったら、入学式には間に合わないぜ?」
と言ってきた。
“コイツにはすべてお見通しなのかよ…。でも、コイツも同じ高校って事は、コイツについて行けば…”と考えていると、ヤツは
「俺について来たら1発だぜ?さ、行こ!行こ!じゃないと俺が遅刻するから!」
そう言うと駅の改札に向かった。
「別に…1人で大丈夫だから!」
俺も慌ててそいつに習って改札に向かう。
大丈夫と言った矢先、前の人が改札の何処で“ピッ”としてるのかが分からない…遂に俺が“ピッ”ってする番なのだが、やり方が分からず改札で引っかかってしまった。すぐ後ろから、
「マジかよ、早くしろよ!」
とイライラしている声が聞こえ、余計に焦って頭がパニックになる。すると、
「カードを右手のとこにあるガラスみてーなとこにかざせ!」
と改札の向こうからヤツの声がした。指示通りにすると…
「ピッ」
と音がした。何とか通れたみたいだ。
するとヤツは俺に駆け寄り、
「早く乗らねぇと遅れるぞ!」
と俺の手を引っ張って走り出す。
「一人で走れるから放せよ!」
と俺が手を振り払うと、ヤツはため息をつき、
「じゃ、付いて来いよ?」と走り出した。俺はヤツを見失わないように走り、ホームへとたどり着いた。ちょうどそのタイミングで車両のドアが開いた。電車の中から大勢の人達が降りたが、その2倍以上の人達が電車に乗り込む。俺とヤツも彼らと一緒に乗り込んだが、車内は満員で芋の子を洗うようだった。
“息苦しいな…”とソワソワしてると、
「満員電車って息苦しくて嫌なんだよなー。落ち着かねーし。そっちはどう思う?」
とヤツが話しかけてくる。
「そんなの、お前には関係ない事だろ?」
とヤツの方を見た。ヤツは
「俺は“お前”って名前じゃねぇよ。俺は俊哉って言うんだ。そっちは?そっちも“そっち”って名前じゃねぇだろ?」
と名前を尋ねてきたが、
「そんなのお前に関係無い事だろ?それにこんな暑苦しい電車の中で自己紹介とか、頭いかれてんじゃねぇの?」
と質問をはねつけた。
「そうですか、そうですか。駅で迷子になるわ、ICカード持ってても使い道分からなくて改札で引っかかっるわ。そんな田舎者を助けたのは誰でしょうかねー?」
ヤツは意地悪そうに言う。この満員電車の暑さと息苦しさで溜まっていた怒りが、ヤツの“田舎者”って言葉のおかげで頂点に達した。しかし、ここは電車の中だし、俺も小さい子供じゃない。ヤツの足を思いっきり踏んづけ、
「黙れ!」
って言うだけにした。ヤツも怒って何か言ってたが、それを無視してイヤホンを耳につけて、音楽を聴いた。
“嫌なヤツだ。それにコイツと関わるとめんどくさい。同じクラスにならないことだけを祈ろう”
と考えていた。すると、ヤツは俺のイヤホンを耳から外し、
「おい!いい加減にしろ!俺の話を聞けよ、この野郎!」
と小さな声で怒鳴った。だが、後ろのおじさんに
「君、さっきからうるさいぞ。君こそいい加減にしろ!」
とヤツは叱られた。俺はその光景を見てニヤッと笑った。ヤツは俺のことを睨んでいたが、気にせず再び音楽を聴いた。
それから数分後、駅に着き、ホームへ降りた。俺は降りた人達の流れに沿って歩き、改札を抜けた。満員電車の中から解放されて清々しい気分だった。そして何も考えず、清々しい気分のまま駅から出ると、ヤツが俺の事を呼んでる気がした。だが、
“どうせ電車の中のことを謝れってことだろ?”
と思い、聞こえないふりをしていた。すると、ヤツは
「おい、聞いてんのか?」
と俺の腕を引っ張った。
「なんだよ!俺に謝れって言う気か?」
と俺は振り返り、怒った口調で言った。だが、ヤツはキョトンとし、そして大声で笑った。
「いやいや、そうじゃないぜ?お前、どこいく気だ?学校はあっちだぜ?」
と俺の進行方向と逆の場所を指さした。