初夜~featuring 山本~
夕飯中騒いでいた武田も落ち着き、食事も無事終了した俺らは、明日の日程について話し合っていた。武田は始発で学校へ行き、軽く練習をしてから会場へ向かう事になるらしい。俺は部員でも無いから武田と同じルートでは会場へは向かえないらしい。その為、俺は武田と一緒に学校へ行き、途中で抜けて一人で向かうことにした。
話もまとまり、武田は
「風呂入ろぜ?」
と言った。
「そうだな、俺とお前、どっちが先に入る?」
と聞くと、武田はモジモジしながら
「……一緒にはダメ…か?」
と眉間にシワを寄せながら言ってきた。唐突で驚いた俺は
「あ、あぁ…。全然…構わないよ。」
と承諾してしまった。武田は
「よっしゃ!」
と言って服を脱ぎ始めた。俺はただ呆然としてその様を見ていると、
「あ、あのさ、そんなにガン見されるとハズいんだけど?」
と言われて、慌てて目を逸らす。
「な、一緒に入るんだろ? ほら、服脱げよ」
と言われたものの、なかなか脱ぐ事は出来なかった。
「仕方ないな」
と俺の服を脱がしにかかる武田に
「待て待て待て待て! …自分で出来るから。…な?」
と言って制止する。ため息をついて腕を組む武田の視線を感じながら、俺は服を脱ぎ終えて、風呂場へと直行した。
「山本、頭洗ってやるよ」
と俺の頭をシャワーで濡らし、シャンプーを手に取り洗い始めた。
「い、いいよ、自分で出来るから…」
と言ってる最中も俺の頭をガシガシ洗い続ける。そして洗い終えたと思ったら、俺の頭にシャワーを掛けた。シャンプーが流れ終わったあと、俺は
「何してんだよ!」
と軽く怒鳴るが、
「いや、頭を洗ってた」
とさらっと言った。そして、
「次は俺が洗ってもらう番だ」
と言って、シャワーとシャンプーを手渡そうとする。
「いやいやいやいや、頭くらい自分で洗えるだろ?」
と呆れると武田は
「洗ってくれねぇのか…」
と言ってしょんぼりする。
“お前!そのしょんぼりに俺が弱いの知ってるか?”
と心の中で怒鳴りながら、
「わかった、貸せよ」
と言って、武田の両手の物を奪い取り、武田の頭を洗い流した。次に武田は、ボディタオルとボディソープを手にし、俺の体を洗い始めようとする。それは流石にまずいと思い、
「おいおいおいおい!それは流石にダメだろ?!」
と怒鳴った。
「山本、お前さっきから怒ってばっかだそ? 何がダメなんだ? 体を洗い合うくらい。男同士だろ?」
と言って武田はキョトンとする。思った以上に呆れた反応で逆に驚いたが、
「恥ずかしいからだ!」
と怒鳴った。
「なぁ、山本。ここまで来たんだぜ? 恥ずかしい事なんて無いだろ?」
という言葉に再び呆れたが、
「いいや、ダメだ! それに俺らは、付き合ってないんだぞ?」
と言い、武田の手からボディタオルを奪い取り、体を洗った。武田は
「山本…すまない。お前がここまで嫌がるのは知らなくて…」
と謝っていたが、俺はそれを無視して体を洗い流した。
「ほら、終わったぜ?」
と言ってボディタオルを洗って手渡した。武田は
「なー、悪かったって…」
と言ったが、それを無視して俺は
「バスタオルはどこ?」
と聞いた。武田は
「風呂場から出て左の引き出しの中だ…」
と悲しそうに言ったが、何の反応もせず、俺はバスタオルを取り、体を拭いた。それから5分後くらいに武田も風呂から上がってきた。
「お前、明日試合だろ? ゆっくり湯船に使ってリラックスして来いよ。」
と言ったが、武田は
「いや、いいよ…」
と言って、食卓のイスに座り込んだ。
武田は何度も謝ってきていたが、無視していた。俺は怒っていた。だが、それ以上に恥ずかしくて緊張していた。あのまま進んでいれば、今頃一線を越えていただろう。
“今はできない…”
と心の中で呟き、どうにかして怒りを鎮めた。
「本当に悪かったからさ…」
と今にも泣きそうな顔で謝ってくる武田に
「もう、謝らなくていい。大丈夫だから」
と言った。
「もう、あんな事しないからさ…」
武田は今にも泣きそうだ。
「あぁ、もう分かったから、そろそろ寝ないと。明日早いんだろ?」
と言って武田と部屋に行った。
俺は
「毛布をくれ」
と言って武田から毛布をもらい、床に適当なスペースを探して寝ようとすると、
「おいおい、お前が床で寝ることは無いだろ?」
と武田は言った。
「何言ってんだ? お前、明日は大事な試合だろ? 床で寝て体を痛めたらどうすんだよ?」
と床で寝ようとした俺に、武田は
「好きな人を床で寝かせてやれるか?! お前が床で寝るなら、俺も床で寝る!」
とムキになる。
「お前なぁ…」
と言って呆れたが、武田は本気のようだった。俺は深いため息をつき、遂に折れた。
「わかった。お前にはどうしても床に寝て欲しくはない。だから、こうしよう。2人でお前のベッドに寝るってのはどうだ?」