晩餐~featuring 武田~
辺りはもうすっかり暗くなっていて、夜空を照らす満月は、とても綺麗に見えた。練習が終わった俺はグラウンドの端で俯く山本のところへ歩いた。
「おい、起きろ」
と山本を揺すり起こす。
「ぁ…寝てたのか」
と目を擦って立ち上がった山本は少しふらついていて、俺の支えが必要だった。
「練習どうだった?」
と寝ぼけた山本が聞いてくる。
「あぁ、とても濃い練習だったよ」
と返したが、山本は未だに寝ぼけていて、話はろくに聞こえてなさそうだった。
「おい、俺ん家に行くぞ!」
少し大きめの声を出して山本を目覚めさせようとするが、あまり効果は無いようだ。
「はぁ……」
とため息をついて俺は山本を背負った。山本は
「あー、降ろして、降ろして」
と言うだけ言って暴れようとはしなかった。山本は最終的に、俺の背中で眠った。
「お前って卑怯だよな」
と呟いた。俺は山本を背負いながら、電車に乗り、帰宅した。
「おい、起きろよ」
と言っても起きてはくれない。俺は仕方なく山本をベッドに降ろし、親父が作ってくれた晩飯を温めていると、
「武田ー」
と山本が呼ぶ声が聞こえてきた。
「キッチンにいるから、こっちに来い!」
と山本に言った。すると、山本は眠たそうな目を擦りながら俺の所に歩いてきた。
「おい、飯食うから顔洗って目を覚ましてこいよ。洗面所はあっちにあるから。」
と山本に目を覚ますよう促し、山本が戻ってくる前に、晩飯の盛り付けまでを済ませた。
山本も席に着き、
「いただきます!」
と言っておかずをつついていると、突然、山本が
「俺のカバンは?」
と聞いてくる。
「多分俺の部屋にあるはずだ」
と教えると、山本は俺の部屋に行き、袋を持って戻ってきた。そして、
「もし良かったら、食べるか?」
恥ずかしそうに袋を持ってきた。その袋の中身は、昼飯にも食った、俺の大好物の山本ん家の唐揚げだった。
「マジで食っていいのか?」
と聞くと、
「あぁ、お前の為に持って来たからな。お前が全部食って良いぞ」
と山本は答えた。俺が唐揚げを頬張っていると
「お前ってさ、ほんと幸せそうに食うよなー」
山本は微笑む。
「そりゃ! 美味いもん食ってるからな!」
と言ったつもりだったが、口の中の唐揚げのせいで、ちゃんと言いきれていなかった。その姿をみた山本は笑いながら
「もの食ってる時は無理に話さなくていいから」
と言った。そして、
「でも、お前が幸せそうに食ってくれて嬉しいよ。なんせ、俺の手作りだしな」
と微笑んだ。
俺は山本の手作りというのを聞いて、驚きのあまり噎せた。
「大丈夫か?」
と山本は俺に駆け寄り、背中を摩ってくれた。大丈夫という意思表示を、手と頷きに込めた俺に、
「そんな焦って食わなくてもいいだろ?」
と山本は言う。ものを全て飲み込み、口の中を空にすると
「おい、これはお前の手作りか?」
と噎せた時に聞こうとしたことを聞く。
「今更かよ」
と言いながら山本は笑う。
「俺はここの近くで一人暮らししてるからな。その唐揚げは俺の手作りだ。それに、俺の昼飯の弁当は毎日、俺が自分で作ってるんだぜ?」
と自慢げに言う。
「山本! なんでこんなに料理が上手なんだ?」
と聞くと
「俺の実家は弁当屋だからな」
と教えてくれた。
“きっと山本の唐揚げが美味いのは俺への愛が詰まってるからなんだろ?とか言ったら殺されそうだな”
と一人で妄想していると、その妄想が顔に出てたらしく、
「武田、ニヤけてんの、少し不気味だぜ?」
と言われた。だが、俺の妄想は止まらなかった。
“もし、俺がコイツと一緒にいたら、毎日美味い手料理が食えるんだろうな!”
などと一人でテンションが上がってる俺を見て、山本は
「やれやれ…」
とため息をついていた。