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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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困惑~featuring 山本~

「何でこんなことになるんだよ!」

 俺の心の叫びが、部屋中に響き渡る。武田にハグされたあの日から、こうなる気はしていた。でも、俺が武田に気持ちを伝える事になる、と思っていた。

 俺は武田に友情以外の何かを感じていたのは確かだった。だが、認めたく無かったのも事実だ。だからハグされて攻撃的な態度を取っていたのかもしれない。

 “この感情は『普通』じゃない。これが他の誰かに知られたら”

 と考えると頭が痛くなる。『これは普通ではない』という風に考えて忘れようとしても、忘れられない。常に自分を誤魔化さなければならなかった。

 武田にハグされた日、その感情は確信に変わった。友達だからハグされても鳥肌が立たなかったわけじゃない。好きだからハグされても平気だった。逆に安心感が得られて嬉しかった。

 でも、これは正しくない。

 同性間の愛は受容されつつあるが、未だに否定的な部分はある。だから結婚はできない。誰が何を言おうと、それが真実だ。

 それなのに、自分の気持ちを認めるというのにはすごい勇気が要ることだと思う。認めるよりも誤魔化している方が楽だ。誤魔化していれば逃げ続けることが出来る。でも、認めるには“それ”ときちんと向き合わなければならない。

 きっと武田は自分とちゃんと向き合った。ちゃんと向き合って出した結果なのだろう。だが、俺は違う。認めてなんかいない。否定し、問題から逃げ続けていた。そんな中途半端な気持ちの俺がアイツの想いに応えられるはずがない。逃げないためには、どうすればいいのか…。俺は必死に考えた。

 「紙に書いて整理しよう。」

 そう言って俺は机に向かった。

 “もしかしたら、アイツもこんな風にして考えてたのかな?”

 なんて考えたら口元が緩む。そして、今の感情をまとめて整理した。

 1時間ほど考えて出した結論。その結論を伝える為に、徐にポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。

 2~3回のコールで相手は電話を取った。

 「珍しいね! 週に2回も掛けてきてくれるなんて」

 彼女のテンションは俺とは真逆だ。だが、きちんと伝えなければならない。俺は重い口を開いた。

 「典子、悪いけど、友達に戻ってほしいんだ」

 「え?なんて言ったの?」

 典子は自分の耳を疑い、聞き直す。

 「……だから、友達に戻ってほしいんだ」

 俺は繰り返して言う。

 「ちょっとちょっと! 急に何なのよ! いきなり電話してきて、別れてほしい? 何言ってんの?」

 とヒステリックに喚く典子に何度も

 「ごめん、でも恋人ではいられない」

 と繰り返した。

 「なんで? 私のこと嫌いになったの? ね? 遠距離恋愛だから?」

 という典子の問いに

 「典子の事を嫌いになったわけじゃないんだ。好きだよ。でも、あの時から、俺のこの感情は友達としての“好き”だった、というのを伝えたかったんだ」

 俺は続ける。

 「君は俺の事を一人の男として好きだったかもしれないけど、俺は違う。幼馴染みの一人として好きなんだ。だから、遠距離恋愛が関係ないって事はわかるね?」

 と答えた。典子は俺の気持ちを確かめるように

 「じゃあ、始めから私の事が好きじゃなかったってこと?」

 と聞いた。答えにくかったが

 「好きだった。でも、あの頃の俺は友達としての好きなのか、恋人としての好きなのか、どっちの好きなのかがわかっていなかったんだ。それに、あの時OKと言ったのは、今までの関係を壊したくなかったから」

 と伝えた。

 長い沈黙の後、

 「そう、倖ちゃんの言いたい事はわかった」

 そう言われ、

 「じゃあ、友達に……」

 と俺の言葉を遮って、

 「でも! 絶対に別れない!」

 と電話口で叫んだ。

 「なんでだよ!」

 こちらも怒鳴り返した。典子も更に怒鳴り返してきて

 「私ね、倖ちゃんの事が大好きなの。それに2年だよ? 2年も付き合っといて、私を捨てる気? 好きじゃなくてもいいから別れないで!」

 典子の“捨てる”という表現には心底腹が立ったが、気を鎮めながら

 「典子、その付き合い方は良くないと思う。その言葉通りに関係を続けていくってことは愛じゃなくて、情けが必要って事だろ?」

 と言った。

 「それでもいいの!」

 と典子は泣きながら叫んだ。

 「私の側から離れないで………」

 と泣き続ける典子に

 「ごめん…」

 と告げて、電話を切った。

 

 「長くかかりそうだ…」

 俺はベッドに横たわり、天井を見つめながら呟いた。

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