拒絶~featuring 武田~
「んで、話って?」
山本は屋上で柵に寄りかかってる俺に声を掛けた。
「あぁ、話ね。」
と俺は思い出したように言う。
「じゃ、聞いてくれ。俺がお前の秘密を聞いた日以来、お前は俺に冷たい態度を取ってる気がする」
と言うと、
「秘密を聞いた日? 違うだろ? お前が俺にハグした日、だろ?」
と訂正された。
「ま、それもあったな。」
ととぼけてみる。
「一体何なんだ?」
腕組みをした山本に話を踏み込まれ、少し戸惑ったが、深呼吸をして、昨日死ぬほど練習した言葉を口にする。
「俺は明後日地区予選なんだよ」
「知ってる」
山本は少し苛立ってるみたいだ。
「あぁ、そうだよな。そんで、地区予選で1回でも負けたら…」
「知ってる」
山本の口調はさっきよりも苛立ってる様だった。
「わかった、本題に入ろう。
俺、あの日からずっと考えたんだ。あの時に俺がお前とハグしなければ、こういう関係にもならなかったはずだ」
と緊張しながらも、ゆっくり落ち着いて話す。
「でも、あのハグは男同士のハグだろ?俺もあれからゆっくり考えてみて、漸く理解したんだ」
と言っている山本の顔には、理解した自信は見られなかった。息を吸い込んで本題に入る。
「いや、違うんだ。俺はお前の事が好きなんだ。」
と言った。
「いやいや、冗談だろ?お前さ、それ友達としての好きってのと勘違いしてんじゃないのか?」
山本は笑っていたが、動揺が隠せてないのは明らかだった。
俺は続けた。
「頼むから聞いてくれ! 受け入れられないのもわかる、でも、本当なんだ! 俺はお前の事を愛…」
と言葉を遮り、山本は
「やめろ!」
と怒鳴った。
「頼むから、それより先は言わないでくれ…」
山本は懇願した。
「なんで言わせてくれないんだよ! 俺は! お前にこの事を言いたかったんだよ! ………この気持ちが伝えられないのは苦しいんだ………」
最後の部分は鼻声混じりで少し聞き取りづらかったかもしれない。だが、山本には伝わっていたようだ。
「お前が苦しいのはわかる。でも、その気持ちには応えられないんだよ…俺も苦しいんだ………」
山本も涙目になりながら言う。俺は鼻をすすり、
「………山本…、俺に最後まで言わせてくれ…。そうしてくれたら、忘れられるはずだから………」
と言ったが、山本は首を横に振って否定した。
「なんでだよ!頼むから…頼むから……」
と俺は土下座して哀訴するが、アイツは
「ダメだ! ダメだ!」
と言う。
「何で最後まで言わせてくれないんだ?」
と尋ねると、山本は鼻をすすり、
「この話は明日に出来ないか? 俺も俺なりに考えてみるからさ」
と涙目で微笑んだ。
俺にはその言葉の意味が理解不能だった。山本は
「ほら。………行こうぜ? 雨が降りそうだからな」
とひざまづいた状態の俺を立たせてくれた。
「俺はもう少しここに居ておきてぇから」
俺は再び柵に寄りかかり、曇天を眺めた。だが、涙で目が曇っていてよく見えなかった。
「…わかった。雨に濡れるなよ?」
と言って山本は屋上のドアを閉めた。その後、何年かぶりに俺は声を上げて泣いた。
そして空も俺と一緒に泣いてくれた。