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2人はその時、本当の愛を知った  作者: 楯山 鐘光
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動揺~featuring 山本~

あの日、武田は俺にハグをした。『離せよ!』と言ったものの、ハグされるのは不思議と嫌ではなかった。俺も俺なりに動揺したんだ。中学の時にクラスのヤツにハグされた時、あの時は鳥肌も立ったし、マジで嫌だった。

 でも、武田は別だった。それが良くわからないんだ。

 “きっと俺は友達ならハグされても平気なんだろうな”

 という無難な考えに落ち着いた。

 “だって俺には彼女がいるしな”

 とLINEを開いたが、武田とLINEを交換して以来、彼女とのやり取りよりも明らかに長く、そして楽しかったことを思い出した。だが、俺は頭を横に振り、

 “会話がよっぽど面白いのは男同士だからだろうな”

 と自分の心に言い聞かせた。

 

 嶋田 典子

 それが俺の彼女の名前だ。彼女とは幼馴染みで仲が良かった。まるで男友達のようだった。でも中学2年に上がった時、それが一気に変わった。彼女は言った。

 「私ね、倖ちゃんの事が好きなの」

 その言葉で何もかもが変わった。始めは、付き合ったら楽しいだろうなと思って付き合った。楽しいというよりも、今までの関係を壊したくなかった、という方が正しかったのかもしれない。

 とにかく、彼女は変わった。もう、前のように男友達感覚では連れ回されるのを嫌がった。デートというのを重視するようになり、自分を女の子と認めてもらいたがった。

 俺は典子の事を女の子らしい扱いが出来るように気張らないといけなくなって、関係がしんどく思えた。典子とのLINEのやり取りに関しても、気を遣いすぎて、気軽に返信したり、既読をつけるのも難しくなった。典子とのLINEでのやり取りを見て、だいぶ無理をしてたんだろうな、と思った。

 大きく背伸びをして、

 「何でこうなったんだろう……」

 と呟くと、スマホから

 「何が?」

 と女性の声がした。さっき背伸びをした時に誤って通話ボタンを押したらしい。

 「ああ、何でもないよ」

 と誤魔化した。

 「珍しいね! 倖ちゃんから電話してくるなんて! 何か話したいことでもあるの?」

 と嬉しそうに聞いてくる。

 「いや、特には……」

 と平静を装う。

 「特には、って何?あ、もしかして私の声が聞きたいから電話をかけてくれたの?」

 と典子は正解にカスリもしないことを聞く。だか、ぶっちゃけ話を合わせてた方が楽だし、という事で、

 「あ、あー、うん、そうだよ」

 と適当に流した。彼女は

 「もう2週間も会ってないね…」

 と寂しそうに言う。

 「じゃあ、会おっか?いつなら会えそう?予定空けとくよ」

 と尋ね、典子には聞こえないように、ため息をついた。

 「んー、じゃあ、金曜日はどう?」

 と提案されたが、その日は俺らの高校の予選がある。

 「あー、すまない、その日は……」

 と言いかけると

 「甲子園の地区予選、でしょ?」

 と典子に先に言われた。

 「なんで知ってんだ?」

 と聞くと

 「倖ちゃんのとこと、私のとこで試合するんだよ?もしかして、知らなかった?」

 と言われ、ハッと思い出し、武田から貰ったトーナメント表を見ると、確かに“鹿野高校―――如月高校”の記載があった。

 「なんか…気まずいな」

 と言うと、

 「そうかもしれないけど、仕方ないじゃん!そして、あまりこんな事言いたくないけど、倖ちゃんに会えるからあまり気まずいとは思ってないの」

 と嬉しそうに言う。

 「そうなんだ? それなら良かったんじゃないか?」と返す。

 その瞬間、武田からのLINEの通知が来た。

 “明日話しておきたいことがある”

俺は驚いてスマホを落としてしまった。

 「大丈夫?何があったの?」

 と典子が心配そうに聞いてきた。

 「あー、大丈夫。虫が飛んできただけだから」

 と適当に嘘をつくが、

 「本当? LINEの通知音が聞こえたよ? LINEの通知で驚いたんじゃないの?」

 と核心を突かれるが、

 「LINEの通知は来てたけど、それで驚いたわけじゃないから」

 と何とか躱す。

「ふーん、そう? だったらいいけど。ま、とりあえず、私明日早いから。もう寝るね?」

 と言う典子に

 「うん、わかった。おやすみ」

 と電話を切ろうとすると、

 「ね!」

 と呼び止められた。

 「何?」

 と聞き返すと典子は

 「私、倖ちゃんの事、好き! 倖ちゃんは?」

 と尋ねる。

 「あぁ、分かってるよ。あと、俺もだよ。」

 と俺は答えるが、その声には嬉しさなどの気持ちはなかった。

 「じゃあ、おやすみなさい!」

 と言われ、再び

 「おやすみ」

 と返し、電話を切った。

 

 典子とはあまり長く話していたわけじゃないのに、気疲れしてしまう。ため息をつきながら、武田のLINEに

 “わかった”

 とだけ返信をした。

俺の中で“武田”ってやつの存在がただの“友達”ではない、そう認めざるを得ない気がした…………

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