決心~featuring 武田~
あの日以来、俺と山本はろくに顔を合わせていない。俺の席の前の前にいるヤツは俺の事を避けるようにしてるのが分かる。城之内はこういうのにはとても敏感らしく、昼休みに
「おい、またお前ら何かあったのか?」
と小声で聞いてくれた。
「いいや、特に何も」
と平然を装って質問に答えるが、城之内の眉間にはシワが寄っていた。どうやら信じてもらえてないらしい。
「ちょっと来いよ、ほら」
と言って城之内は俺を人目につかない屋上に連れ出した。
「さて、何があったんだ?」
と城之内は腕を組み同じような事を聞いてきたが、あまりにもしつこかった為
「だから、何も無いっつってんだろ!」
と怒鳴ってしまった。
「悪い……」
俺は怒鳴ってしまった事を少し反省したが、次は城之内が怒鳴った。
「おい! お前が倒れた時、山本はお前に付き添い、わざわざお前の荷物を学校まで取りに戻ってやった! それからアイツは俺に電話がかけてきて、『アイツは俺の事を友達だと思ってくれてんかな?』とか、『俺は友達のアイツの苦労に気づいてやれなかった』とかって、いつもはクールな山本が泣きながら話をしてたんだぞ?! わかるか?! お前の事を大事に思って涙を流してくれるようなやつが、なんで今はお前に冷たい態度をとる?! 何も無かったら、山本は今みたいに、お前に冷たくしてるはずが無いんだよ!」
俺は城之内がこんなに怒ってるのは初めて見たし、それにアイツが俺の事で泣いていたって事にも驚いた。
「どうだ? わかったか? …何があったんだ?教えてくれよ…」
城之内は息を切らしながら言う。
「あぁ、わかった。確かに“何か”はあった。だけど、それは言えない」
と言うと城之内がまた怒鳴り始める。
「お前な! 俺はただ2人で仲良くやっていってもらいたいんだよ! これはアイツにも言ったが、板挟みになるのはゴメンだ!」
「板挟みになるのが嫌なら、俺と友達になるのは辞めてくれ」
俺は首を降りながら答えた。
「これは俺自身が整理しなきゃいけない問題なんだ。誰の手も借りられない……。すまない……」俺はそう言って、呆れている城之内の脇を通り抜けて教室に戻った。
教室に戻った俺は、授業中、自分自身の感情を整理するために、ノートに考えをまとめた。バカらしい考えだが、それが事実だった。
“バカらしい感情のせいで、俺は友情を壊した。なら、この感情は忘れよう”
そして、
“忘れろ、忘れろ、忘れろ”
と心の中で何度も何度も繰り返した。
「おい! 武田! ピッチングが悪くなってるぞ! 集中しろ! 集中! 雑念を捨てろ!」
と監督に怒鳴られた。
「はいっ!」
と大きな声で返事し、ピッチングに集中する。だが、その集中もあまり長くは続かなかった。俺は監督のところに歩いていき、
「すいません、俺、体調が悪いんで、早めに練習を切り上げさせてくれませんか?」
と監督に頼み込んだ。
「わかった」
と監督は俺を早めに帰してくれた。
「予選までには完全に治すんだぞ?」
という監督の優しい言葉を背に受け、帰路についた。
帰り道、イヤホンで聴いてる音楽も、街の声も、親父の声もあまり聞こえなかった。
俺は机に向かい、授業中にまとめた考えについて更に考えた。多分このまま、この感情を抱え込んだままじゃ、前には進めない。多分地区予選にも影響が出るだろうし、忘れることも出来ないだろう。俺なりに考えたが、どうやっても答えは他に見つからなかった。俺はその考えを紙に書いた。
―――山本のことが好きだ。好きという気持ちを伝えたい―――