過去~featuring 武田~
「俺は里子らしい」
山本は語り出す。
「俺の本当の名前は田嶋 倖大。俺の両親は共働きで、職場が一緒だったらしい。その職場ってのが大きなデパートみたいなものらしかったんだけど、そこが火事になって、母親は客の避難誘導中に煙を吸い込み過ぎて亡くなり、父親は母親を探しに火中に飛び込んで、母親を抱えながら外に出たが、父親も煙を吸い込みすぎた為、亡くなったらしい。俺の母親には妹がいたものの、経済的に苦しく、俺を引き取れる状況じゃなかった為、俺が2歳の頃に里子に出されたらしい。」
俺は、山本のあまりにも凄まじい過去の話に、ただただ呆然としていた。
山本は続ける。
「これは養母が亡くなる時、俺が13歳の時に聞いた話だ。その時の俺は、俺が親として慕ってきた人達は実の親じゃないとわかると、かなり取り乱した。ずっと大切に育ててくれた養父に反抗するばかりだった。
そんなんで、心も荒れて不登校も多かった頃、ある人は話を聞いてくれた。俺が閉ざしきった氷の心を少しずつゆっくり暖めて、開いてくれた。俺に生きる力を与えてくれた。その人はこう言ったんだ。『君が大きくなったらさ、君は叔母さんに会うことが出来る。そうすれば君の両親の話を聴けると思う。君は叔母さんと両親に、こんなに大きくなりましたよって、こんなに頑張りましたよって胸を張って伝えられるんだよ。だから、頑張ってみない?』
だから俺は頑張って、有名な進学校に進んだ。父さんには必死にお願いして、学校に近い、ここで一人暮らしさせてもらって通ってる。
俺は父さんに立派になって何か、恩返しとか償いをしたい。それに俺はあの人のようにたくさんの傷ついた人の心を救いたいんだ。あの人がしてくれた事を俺もしてあげたい。それが俺の夢だよ。」
と話終えた山本の目には涙が浮かんでいた。
倒れた時の俺は自分の夢を寝言で言ってたらしく、それを全部聞いた山本は
「自分だけお前のこと知ってるのは落ち着かないから」
と笑いながら言った。そして山本は俺を家に招いてくれて、そして教えてくれた。耳を疑いたくなるような話を。
“普通こんな秘密なんて話したくないはずなのに、話してくれたんだろう?”
とか、いろいろ考えてみたけど、きっと俺の事を信頼してくれてるからなんだろうなって思った。俺の事を信頼してくれてるって思うと、口元が緩んでしまう。
「どうだったか?俺の話。」
少し鼻声混じりで尋ねた山本を、俺はギュッと抱きしめた。
「馬鹿馬鹿馬鹿! 離せよ!」
と暴れる山本に
「泣いてんなのがバレんぞ? 良いのか?」
と意地悪そうに言ったが効果はなく、山本は俺を突き飛ばし、腕を振りほどいた。
「なんで俺にハグしたんだ?」
と半ギレ状態だが、顔を赤くして聞く山本を見ると、何故か可愛いと思ってしまい、また口元が緩んだ。
「おい! 笑うなよ! 俺は! 本気なんだぞ!」
と怒鳴ってくる。
「なー、悪かったよ。お前が悲しんでるからつい…」
と謝ると、
「男同士だぞ?分かってんのか?」
と追い打ちをかけてくる。返答に困ったが
「たかが男同士、だろ?確かに俺だと暑苦しいかもしれんが、もしお前の親父さんがハグしてきたらこんなにキレるか?」
と言うと山本は黙り込んだが、
「多分キレない。でも、有り得ないけどな。」
と考えて答えた。
「でも、お前は俺の父さんじゃないし、ましてや家族じゃないだろ! ふざけんな!」
と思い出したように怒鳴る。
「悪かったよ、悪かったってば!」
と手を挙げて降参のポーズを取ると、山本も少し落ち着いた。
「次お前が俺にハグする時は、俺に許可を取れ。」
と山本が言ったから
「じゃ、ハグしてもいいか?」
と両手を開いてハグの許可を申請したら、がら空きの俺の鳩尾に山本の鋭いボディブローが入る。俺は悶絶し、その場でうずくまった。
アイツはグチグチ何かを言いながら自分の部屋を出ていった。
部屋の中でうずくまりながら、ある芽生えた感情を否定しようとしていた。
“多分俺は熱中症でおかしくなってしまったからかも知れない”
と自分の心の中で自分を落ち着かせようとしたが、なかなか落ち着かない。
「クソッ、この感情、どうすりゃいいんだよ!」