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じいちゃんと後夜祭  作者: ひろゆき
1/1

じいちゃんの死

じいちゃんが死んだらしい。

先週末はあんなに元気だったのに。。。


夕方、僕が帰宅すると家には妹の敦子しかいなかった。


小学校6年生の敦子は母が迎えに行き早退したようだが、病院には行かせない方が良いとの判断があったようで自宅で1人で僕の帰りを待っていたらしく、僕の顔を見た途端わんわんと泣きじゃくった。


書き置きには、「じいちゃんが亡くなったので病院に行ってきます」としか書かれていない。


「じいちゃんが亡くなった。。。」「じいちゃんが死んじゃった。。。」「じいちゃんが。。。」

僕はとても動揺した。

じいちゃん子だった僕はじいちゃんが死んだことを全く受け入られる状況になかった。


これまで親族で亡くなった者がいなかった僕にとっては人が死ぬということ自体よく理解できなかった。


先週末にじいちゃんの家に遊びに行った時にはいつも通りで楽しそうにお酒を飲みながらおしゃべりしていたじいちゃん。


「なんで?」「何が起きた?」「人ってそんな簡単に死ぬのか?」「死ぬんだな~」


泣きじゃくる敦子の頭を撫でながら僕は人の死ぬことについてまだ実感が沸かずにいた。


涙は出ない。


ふと、「敦子はそもそも何で泣いているんだろう」「じいちゃんが死んだことを悲しんでいるのか?」「それとも一人で家に残され寂しくて泣いているのか?」なんて思う。


動揺はしているが、どこかで冷静な自分がいることを不思議に思う。


兎に角、僕は敦子と2人で両親が帰宅するのを待った。


お菓子を食べながら敦子とテレビを見ながら両親の帰りを待っていたが、8時を回っても連絡なく帰って来ない。


向かいのおばさんが「うちで夕ご飯を食べなさい」と声を掛けてくれた。

どうやら、母がおばさんに電話でお願いしたようだ。


マンションの向かいに住むおばさんの家にはお姉さんが2人いた。


おじさんとはなかなか会うことがなかった。


新築マンションに引っ越してきて4年経つがずうっと仲良くしてもらっている。


おばさんはいつも綺麗な恰好をしていておっとりと優しい雰囲気で母とは全く違っていた。


お姉さん達もとても綺麗で優しく僕は活発でおっぱいの大きな次女の春奈さんに憧れていた。


お姉さん達と一緒にテーブルを囲み夕食をご馳走になった。


敦子は大好きなお姉さん達と楽しくおしゃべりをしながら上機嫌に食事をしていたが、女ばかり4人の中で男1人の僕はドキドキと恥ずかしくて御飯も喉を通らず何とも居心地が悪かった。


夕食後も敦子はお姉さん達とゲームをして遊んでもらい楽しそうにしていたが、僕は居たたまれなくなり自宅に帰りたいとおばさんにお願いした。


おばさんは僕の気持ちを察したようで、「あっちゃんは任せてね。お風呂にも入れとくから心配いらないよ。ヒロくんはおうちで待ってなさい。火は使っちゃダメよ。お風呂もお母さんが帰ってくるまで入らずに待ってようね。」と言ってくれた。


僕は「すみません。よろしくお願いします。」と言って頭を下げ、玄関を出ると1秒で自宅のドアを開けた。


「オレは中2だぞ!!」「子供扱いしやがって!!」なんて変なところで憤った。


両親は11時頃帰って来た。


敦子は、お姉さんのパジャマを着てお風呂上りの良い匂いを漂わせながら母に抱きかかえられ戻って来た。


「お姉さん達をお風呂に入った敦子」「春奈さんのパジャマを着ている敦子」を恨めしく思った。。。 


僕は馬鹿だ。


父に「話があるからリビングに来い」と促され、リビングに行くと父はタバコを吸いながらソファーにふんぞり返っていた。


最近の僕は父とも母とも不仲だ。


母とは喧嘩ばかりしている。


母は兎に角うっとおしい。

でも、母の尻に敷かれている父の方が嫌いだ。


世の中では「反抗期」って言うらしいが、何だかイライラしちゃって。。。だから嫌いだ。


だから父に「来い」って言われたからってホイホイと言うことを聞くなんてことはまずないんだけど、今日はそんな雰囲気ではないから大人しくリビングに行くことにした。


そして父の態度を見て事態の深刻さを痛感した。


父は真面目な人だ。


物静かでおちゃらけたところがなく母との口喧嘩にも負けちゃう(負けてやっている)人だ。

別にしつけに厳しい訳でもないし、あまり怒られたこともない。

母がキーキーキャーキャーと煩いからバランスをとっているのかもしれない。

ゴルフが大好きで休日もあまり家にはいない。

ヘビースモーカーで家では煙の中でいつも苦々しい顔をしている。

学校の行事には一切来てくれないし近所の人付き合いも苦手な人だ。


全く社交的でない父はそれでも有名な精密機械メーカーの営業課長らしい。

営業マンって雰囲気じゃないんだけど。。。


14年の付き合いだけど正直言って父との楽しい思い出はそれほど多くない。


そんな父だけど目の前にいる人はいつもと全く違う。


何とも言えない雰囲気を醸し出し、ちょっと声を掛けづらい。なんか変なことを言ったら殴られそうな。。。


僕は、テーブル越しにソファーと対面し大人しく胡坐をかいて父が話し始めるのを待った。


父が2本目の「ハイライト」に火をつけた頃、敦子の部屋から出てきた母がソファーに座り「セブンスター」に火をつけた。


リビングは「ハイライト」と「セブンスター」の煙でモクモクだ。


でも、別にいつものことだからあまり気にはならない。


暫く父と母は小言で会話をすると、徐に僕の方に向き直し重々しい口調で話し始めた。


「おじいちゃんが今朝突然脳梗塞で倒れてしまいそのまま亡くなってしまったんだ」

「救急車が来た時にはもう亡くなってたらしい。苦しまずに逝ったから良かったよ」

「布団を干そうとベランダに行こうとしたらそのまま倒れてしまったんだって」

「朝ご飯の支度をしていたおばあちゃんは発見が遅れたことを悔やんでて『すぐに気が付いてあげれば助かったかもしれない』って自分を責めてたけど、起きた時だって全くそんな兆候もなかったんだから仕方がないよ」

「お前はおじいちゃん大好きだったよな」「先週会っといて良かったね」「明日から色々と忙しくなるからよろしくな」


父はタバコを吸いながら話していたが、タバコを持つ手は明らかに震えていた。


それをぼんやりと見つめながら僕は父の話を黙って聞いていた。


続いて母が、


「初めてのことだからよくわからないかもしれないけど、明日からしばらく学校はお休みすることになるからね。」

「学校にはお母さんから連絡しておくからね」

「ヒロはお兄ちゃんだからあっちゃんの面倒しっかり見てね」


と。


とりあえず、その夜は風呂に入ってさっさと寝た。


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