表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒いネコの友達  作者: 遠宮 にけ ❤️ nilce
一章 どうしたら人と親密になることができるの?
13/24

13 顔と名前を覚えられない <紹介:小田由美子>

挿絵(By みてみん)


<13話 あらすじ>

 やりとりを見ていたクラスメイトの小田由美子が「家族にネコの世話を引き受けていいか聞いてみる」と声をかけてくれる。

 彼女の親友の高橋かなえは「面倒ごとに首を突っ込まないほうが良いよ」と嫌な顔をし、「深町は小学校で問題を起こして居づらくなり、越境してうちの中学に通っているらしい」との噂を口にする。

挿絵(By みてみん)

「なんや、ももちゃん。あそこまで意固地になることないのに」


 虎之介が慰めてくれる。もう分かってもらおうとするのはやめよう。もともと二人は関わり合いがなかったんだから、これ以上悪くならなきゃそれでいい。百瀬は嫌いな相手にわざわざ嫌がらせをするような性根の曲がったやつじゃないし、たぶんこれでいいんだ。


「仕方がないよな」


 誤解されたままの深町を思うと、少しだけ胸が痛むけれど。


「悪いなぁ。南朋。うちも転勤族やから動物はあかんわ。誰か見つかるとええな」


 虎之助は心底済まなそうに言うと自分の席へ戻ってしまった。猫の飼い主探しは白紙に戻る。黙って本の間に顔を落としている深町に声をかけることなく、俺も廊下側一番後ろの自席へと向かい、カバンを置いた。


「大葉くん。さっき百瀬くんにしてたネコの話、聞いちゃった。詳しく教えてもらえない?」

「え?」


 斜め前の席に座る小田(おだ)由美子(ゆみこ)が話しかけてきた。同じ宮下(みやした)(みなみ)小学校出身で、百瀬と因縁の仲である高橋かなえの幼馴染だ。

 ふたりはいつも一緒にいるけれど、性格は正反対。高橋が誰に対しても臆さずなんでもはっきりモノを言えるのに対し、小田は声が小さめで、目が合うとニコッと微笑むような穏やかで控えめな感じの子だ。決して目立つ方じゃないけど、彼女をいいなと思っている男子が何人もいるのを知っている。


「あの、深町さんが助けたネコの話。力になれるかわからないんだけど、うち一軒家だし、お世話できないか家族に相談してみようかなと思って」


 小田は縁の赤い眼鏡越しに俺を見上げた。こんな時に手を差し伸べたいと思ってくれるだけでもありがたい。席の前にしゃがみ込んでいた高橋が立ち上がり、えーっと不満の声を上げる。


「関わらないほうがいいと思うよ。深町さんよく突っ走るから、ちゃんとした話かわかんないし」

「でも」

「だいたい由美ちゃん動物飼ったことないじゃん。事故にあったネコだっていうよ? 荷が重いって」


 俺の怪我であれだけの注目を浴びたんだ。クラスほとんどがもう事情を知っているのだろう。関わらない方がいいというのはひどいが、高橋が心配するのもわからなくはない。

 保健室で見た時、黒ネコは明らかに気を失っていた。入院が必要だったのだし健康状態も心配だ。家族の許可なく連れ帰るわけにもいかない。慎重になるのは当然だ。首輪をしてあったわけだし。一番いいのは早く元の飼い主が現れることだけど。そしてこれを機にあの危なっかしい外歩きをやめさせてくれるとなお良い。


「小田、ありがとう。今日の放課後、動物病院へネコを迎えに行くから来てくれよ。直接聞けば安心だろ」


 小田が頷く横で、高橋が肩をすくめる。


「あたしはパス。飼えないし」


 それから周囲をぐるっと見やり、口に手を当て声のボリュームを落とした。


「あの子の家ってうちの校区じゃないんだって。わざわざここまで来てるのはよっぽどのことがあって、地元の中学にはいけないからだって噂だよ。何やらかしたのか知らないけど」


 深町のSuicaに印字された文字が頭に浮かんだ。彼女の家はおそらく校区外にある。噂の前半分は真実だ。でもうちの中学に通う理由がなんなのかははっきりしない。


「やらかしたって、そんなのただの憶測だろ。それにネコとはなんの関係もない」

「どうかなぁ。何もなきゃなんでわざわざこっちまで来るのよ。だいたい深町さんに引き取り手を探してる感じ全然ないじゃん。大葉がこうして動いてるのに自分は何もしないのとか、どうかと思う」


 高橋が教壇の方を振り返り、いつも通り一人席で本を読んでいる深町を親指で指した。事故を見た時の深町はなりふり構わず飛び出して、保健室であんなに必死で助けを求めていたのに、今はその時の情熱がかけらも見えない。深町に声をかける相手がないことはわかっているけど、高橋のいう通り、すこしは努力する姿を見せてほしいとも思う。


「これから声をかけるんだよ。たぶん」

「どうだか」


 チャイムが鳴り、じゃあねと高橋が深町の後ろの自席へ戻ると百瀬が教室に帰ってきた。深町は本から顔を上げ、窓際の席に向かう百瀬の姿を追っているように見えたが、声をかけることはなかった。もちろん、振り返って後ろの席の高橋に話を持ちかけた様子もない。次の休み時間も、その次の時間も深町は本に顔を埋めたきりだった。



 掃除の後、俺はひとり深町の席へと向かった。


「ネコのことで誰かに声をかけたか」

「…………南朋に」

「俺は世話できないって返事しただろ。それ以外は?」


 彼女が誰にも声をかけてはいないことはわかっているのに、我ながら意地悪な聞き方をするなとは思う。


「どうやって声をかけたらいいか、考えていたんだ」


 気まずさからか深町はさらに深く本に顔を埋めて、機嫌を伺うように縁から俺の顔を上目遣いに覗き込んだ。


「考えてたってどうなるものでもないだろ。とにかく話しかけない限りは」


 呆れてため息が出る。保健室で先生に交渉していた時の一所懸命さはどこに行ったんだ。大人相手にあんな強く出られるのに、どうしてクラスメイトに対しては弱気なのか。敬語も使わず不遜な態度で押し切り、対応してもらえるまで譲らなかった深町はどこへ行ってしまったのか。もっとも、あれをクラスメイトにやったら許してもらえないかもしれないが。


「でも、難しいんだ」


 深町は唇を噛み締める。何が難しいんだと詰めかけて、ふと、高橋の地元の中学にいけないのはよほどのことがあったからという言葉が浮かんできた。

 それは、つまり、いじめとか?

 だから先生のような大人は平気でも、対等な立場であるクラスメイトにこそ、緊張してしまう? 考えすぎだろうか。俺は助け舟を出すつもりで小田のことを教えてやる。


「小田がネコのことについて深町に話が聞きたいって。声をかけてみれば」


 小田の席を指差すと、深町は後ろを振り返った。彼女の席の周りで高橋のほか数名の女子が談笑している。


「小田……」


 しばらく彼女たちの方を見ていた深町が俺の方へ顔を戻した。黒目がちな目を潤ませて泣きそうな顔をしている。


「ば、ばか。なんで。泣くことないだろ」

「違う」


 深町は即座に否定し、何度も瞬きをして涙を散らそうとする。俺が泣かせたのか? 内心、激しく動揺する。


「私は、顔と名前を覚えるのが苦手なんだ……すごく」


 深町は目の端を真っ赤にして俯いた。恥じているのか。俺や百瀬や虎之助のことを知らなかったとわかった時は、なんというか、あっけらかんとして見えていたのに。


「そんなことわかってるよ。聞けばいいだろ。俺の斜め前の席に座ってるのが小田。小田由美子。授業中は赤い縁の眼鏡かけてる」

「顔に茶色いぶつぶつのある人?」


 違う。それはたぶん小田の隣の席を勝手に借りて座っている高橋のことだろう。彼女の鼻の周りにはうっすらそばかすがある。本人が聞いたらブチ切れるところだ。


「それはお前の後ろの席の高橋だろ。高橋かなえ。本人の前で言うなよそんなこと」

「なんで。……聞けばいいって言ったのに、やっぱり怒るんじゃないか」


 そうか。怒られた経験があるんだ。だから聞けない。虎之助が百瀬の名前を教えた時は尋ねなくても教えてくれたから平気だったんだ。


「怒ってないよ。ただ高橋が聞いたら怒るとは思う。そばかすのこと気にしてると思うから」

「じゃあ、百瀬は顔が五角形なことを気にしている?」


 人の顔を図形に例えるのを初めて聞いた。天パでやや鉢が張っているからか。俺のことは一体どう記憶しているのだろう。


「気にするどころか、そんなふうに覚えられてるとは思いもよらないと思うけど。言わないほうがいいだろうな、それは」

「南朋は三角形なことを気にしている? 顔とか目とか」


 俺も、祐樹も、父親譲りの吊り目だった。顔はよくわからないけど。顎がシャープだと言われたりもする。


「なるほど、そうきたか」

「?」

「いや、それは気にしてないよ」


 深町は眉を顰めたまま固まっていた。その表情は、何も思っていないようにも見えるし、途方に暮れているようにも見える。一言でも話し始めなければ、いつまでたっても飼い手は見つけられないし、友達だってできない。でも誰だって非難されたり、呆れられたり、バカにされるのは嫌なものだし、そんな経験を繰り返してきたのなら尋ねるのが恐ろしくなるのもわかる。きっかけが必要だ。


「放課後、病院に小田を誘っといたから。動物を飼った経験がないみたいだし、家族に聞かないとまだ引き受けられるかわかんないみたいだけど。一応候補として」


 深町は難しい顔でじっと小田の方を凝視し、頷いた。

引き続きお読みいただき、ありがとうございます。

自己紹介を兼ねてキャラバトンに答えてみました。


挿絵(By みてみん)



小田由美子

キャラバトンより(本人が話している風に)

=====================

1、自己紹介

宮下中学校2年3組。小田由美子です。

習い事があるから部活は入ってないの。


2、好きなタイプ

さりげなく人に優しくできる人かな。


3、自分の好きなところ

姿勢がいいところかな。

それは小さい頃からやってる日本舞踊のおかげ。


4、直したいところ

声が小さいところ。

もう少し積極的になりたいなって、頑張ってるんだ。


5、何フェチ?

手かな。

器用にシャーペン回してるのとか……なんだか見とれちゃう。

変かな。


6、マイブーム

ブームってほどじゃないけど、みんなでチョコフォンデュするのが好き。

バレンタイン前に友達とするの。

家族とすることもあるよ。


7、好きな事

実は電車が好きなの。

やったことないけど、18切符買って行けるとこまで乗り継いで一人旅するのとか憧れる。


8、嫌いな事

人が怒鳴ってるのとか見るのは嫌ね。

ドキドキして怖くなるから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ