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プロローグ1

 私は歓声を背に受けて勝利に酔いしれながらスタジアムを後にしました。酔いしれるとはいいましたが達成感はありません。いつもそうなのです。目の前に置かれた『勝利』を誰に邪魔をされるでもなく奪い去る。ですがもちろんいつもそうという訳ではなく、負けるときもあります。しかし、完全無欠の美少女である私は相手を憎んだりなど絶対にしません。できる限りの敬意を相手に示し、周りからの評価を上げる踏み台としてありがたく利用させていただきます。学園生活において周囲の評判というのは何よりも大切だと思います。困った時はみんな私の手駒になってくれますし、何より、先生方に好印象を持っていただければ成績にもつながります。おかげで私、天瀬莉愛(あませりあ)は成績優秀、容姿端麗。下ぼ…、失礼。友人の皆さんからも慕われる存在、という立場を築き上げることができました。最近は私のファンクラブも出来たとか。全く、恵まれない方々というのは本当に可哀想です。いつの日か、担任だった先生はおっしゃいました。

「十人十色という言葉を知っているかね?天瀬さんのようにできる人もいるなら、もちろんできない人もいる。でも、そういう人だってそれぞれ得意としてることがあるんだよ。それぞれの個性が大事なんだ」

 なるほどまさしく十人十色。人の上に立つ者と、それに憧れる有象無象。この学園だけでもこれだけの格差があります。そして、有象無象の方々にも上の者の踏み台という素晴らしい役目があるのです。今でも先生の言葉は私の心に強く残っています。

「莉愛ちゃん、お疲れ様ー!」

「ありがとう紫音。あんまり疲れてないけどね」

 彼女は私の友人の一人、五十嵐紫音。いつも元気で可愛い子です。心から友人として付き合うことのできる彼女の存在は私にとって非常に大きいものなのです。

「莉愛はすごいよね。上級生にもあっさり勝っちゃうんだもん」

「そんなことないよ。あの先輩、始まっても全然動かなかったし楽勝だったよ」

「そうだねー。目を閉じたまま動かなかったし、何がしたかったんだろ?」

「さあ?でもラッキーだったよ。じゃあ、私は帰るね」

「うん。また明日ねー!」

 紫音と別れると荷物を取りに行くために校舎へと歩いていきます。現在、私の通うこの東郷学園ではランク戦の真っ最中。ランク戦というのは、学園の生徒達が学内ランクを上げるためにトーナメント戦を戦う行事です。他校のシステムは分からないけれど、東郷学園では高い順にS~Dまでランクが設定されており、年度末のランクが個人の成績に大きく影響します。ちなみに私はAランク。完璧な存在たる私がもちろんこの程度のランクに甘んじているはずもありません。そのためにはこの1学期末のランク戦で必ず4位以内に入って、Sランクに上がってみせます。

(そしていずれはこの学園の頂点に…!)

「うふ、うふふふふ……」

「何笑ってるんだ、お前?」

「え?」

 突然話しかけられた私は思わず声を上げてしまいました。どうやら心の笑いが口から漏れてしまっていたようです。

「いや、え?じゃなくて。俺なんかに勝ったのがそんなに嬉しかったのか?」

 言われて顔を見ると、私に話しかけてきたのは先程の対戦相手のようです。あまりに高圧的な声だったので私のあまりの可愛さに吸い寄せられた不埒な輩かと思いました。確か一つ上の先輩で、名前は確か──

「えっと、東郷先輩。実はそうなんですよ!まさか上級生の方に勝てるなんて思わなかったので……」

 こういう相手を気遣う言葉が自然と出てくる私はやはり素晴らしい人間なのだと自覚します。ですが東郷先輩は苦笑いで応じます。

「いや、別に。気を遣わなくてもいいって。どうせ俺なんて親父の七光りでここにいられるんだし。能力だって、個人戦では全然役に立たないし」

「そ、そんな自分を卑下しないでください。でも、七光り…というのは?」

「ああ。ウチの親父、この学園の理事長なんだよ。ほら、俺の名字、東郷だろ?」

「なるほど…」

 理事長殿の御子息とは相手が面倒です。私は速やかにこの場から立ち去ることにしました。

「それじゃあ失礼しますね?先輩、これからもがんばってください」

 適当な所で話を切り上げ、校舎に戻ろうとすると───

「待った」

 東郷先輩はいきなり私の肩をつかんできました。

「えっと、天瀬さん。あんたに言っておきたいことがあって」

「えっと、なんですか?」

 もしかして告白でしょうか。超絶完璧美少女の私ですから当然のことでしょう。ですが私は、もちろんこんな先輩とお付き合いする気など毛頭ないので、丁重にお断りすることにしましょう。というか、好きになった相手の名前を

、えっと…なんて考えて言う訳ありませんから告白でもないのでしょう。では一体なんでしょうか。

「いや、なんつーかさ。……見え透いた嘘ついてんじゃねーよ、このクソアマが」

「………え?」

 彼、東郷暁斗先輩から返ってきたのは、愛の告白でも賞賛の言葉でもなく、思いも寄らない罵倒の言葉でした。


続く

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