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終わりの始まり2

途中で視点が切り替わります。

目の前で飛び交う銃弾。

途絶えることなく響き渡る甲高い剣戟の音。

靡く漆黒と白が何度も交差して、陽光を弾いた銀の刃が恐ろしくも美しく煌めく。

初めて目の当たりにした激しい戦闘に戦慄いた体を両腕でしっかりと抱き締める。

ふと、頭の片隅に浮かび上がったのは緋色の光景。

周囲に守られていたから平和に生きてきた私は戦闘なんて目の前で見たことが無い筈なのに、私はこの光景を、命を削り合うような悍ましいコレを知っている。

“あの時”も、そうだった。

全てを奪われた、あの日と同じ。

「いっ、たあ、」

何かを思い出し始めると同時に、突如として頭に鈍痛が走る。

頭を万力で締め付けられているような、途轍もなく硬い石で思いっきりぶん殴られたような、耐え難い痛みに私は石の上に膝をついた。

滲み出た脂汗が頬を流れて顎を伝って地面に落ちる。

小さな濃い灰色の染みはじわじわと周りを浸食して広がる。

思わず石に立てた爪からは赤い紅い血が流れて、冬特有の冷たい空気に触れて赤黒く固まった。

「紗綾!どうかしたの!」

「…だい、じょう、ぶ」

崩れ落ちるようにして膝をついた私に気が付いた三国が、戦闘の合間に心配そうに私を見てくる。

軋むような痛みの中で青褪めているであろう顔を無理矢理上げて、例え弱々しくとも微笑みを唇に刻む。

出来ることなら直ぐに私の元へ駆け付けたいといった表情をしている三国は、たった一人で六体の機械人形を捌いていた。

境内に現れた黒服は七体いて、三国が最初に二体の首を刎ね飛ばしたが、首がないまま動き続けているそれはもう化け物にしか見えない。

ついさっきコアと呼ばれるものを潰したらしい一体は、心臓の辺りに拳くらいの大きさの穴を開けて仰向けに寝転がっていた。

戦闘の最中にサングラスが外れたようで、開きっぱなしの金色の瞳が露わになっている。

「くそっ!邪魔なんだよ!」

三国が磨き抜かれた銀色のナイフを凄まじい速さで突き出して、対峙していた一体の黒服の左胸を貫いた。

先程の黒服もこうやって停止させたのだろう。

痙攣したようにガクガクと体を震わせると、黒服は人間ならば流れる筈の赤い血を一滴も流すことなく、剥き出しになった胸元から人間に無い筈の配線やバッテリーを覗かせた。

残りは五体。

チカチカと瞼の裏側で瞬く緋色の光に眉根を寄せて歯を食いしばっていると、不意に前に影が差す。

まさかと思って恐る恐る顔を上げると、無常にも、心を持たない無表情な一体の黒服が佇んでいた。

人間の姿形をしているのに人間ではない、私たちとは根本的な何かが余りにも違い過ぎるそれに感じる本能的な恐怖と嫌悪。

こいつらは私を人として、生きるものとして認識していない。

それが何よりも怖い。

「花苑紗綾嬢。貴女を主様がお待ちです。一緒に来ていただきます」

「なっ、」

「紗綾!」

伸ばされた黒い手に目を見張る。

誰かの絶叫が恐怖で動けなくなった私の耳に届いた瞬間、首に痛みを感じた私は意識を失っていた。








三国side



「紗綾!」

手刀を首に落とされて気を失った紗綾は、黒服の腕に抱かれている。

ぐったりとした青白い顔にはまるで生気がなく、今にも死んでしまいそうな病人に見える。

急に頭を押さえて蹲った紗綾は、何かを思い出そうとして苦しんでいるようにも見えた。

「…目的は達成した。片付けるぞ」

五体いる内のリーダー格と思われる一体の黒服が懐から拳銃を取り出したかと思うと、他の三体も一斉に同一の銃を取り出した。

いつの間にか四方八方を囲まれていた俺に逃げ場はない。

只管に紗綾を気にしていたことが仇となったらしい。

「撃て」

冷徹で冷淡な、感情の籠らない声が命じる。

それと共に響き渡る四つの銃声に体に走る途方もない熱と痛み。

「ガハッ」

何発かの弾で胃を撃ち抜かれたらしく、呻き声が零れた唇からは赤黒い血が吐き出される。

咄嗟に口を押さえようと右手を動かすと、右肩にも引き攣るような痛みが走り、俺は地面に膝をつく。

ぼたぼたと大きな音を立てて血が流れ落ち、赤い水溜りを形成する。

じわじわと広がるそれに写り込んだ俺の顔は先程の紗綾と同じ、今にも死にそうな病人のようであった。

「そいつを連れて行くぞ」

「…ま、て」

眠っている紗綾を抱き抱えた黒服を残りの四人が守るような配置になると、足音一つなく歩き出した。

霞む視界で必死に手を伸ばすが、焼け付くような痛みに目眩を覚える。





行くな、行かないでくれ。



俺を置いていくな。





ぐるぐると頭の中を巡る想い。

喪いたくないたった一つを奪われかけようとしていることに対する、今まで生きてきて感じたことのないほどの恐怖を味わう。

遠い昔、自分が殺されかけたことに感じた恐怖なんてそれの足元にも及ばない。

大事に大事に囲い込んでいたものを奪われる恐怖は、失血の所為で動かなくなった体を支配する。

とうとう体を支えていることも出来なくなって、俺は無様にも地面に倒れ伏した。

漆黒が視界を塗り潰す。





「……待って、いろ。…必ず、迎えに、行く、から」





途切れ途切れに呟いた言葉は紗綾に向けたものなのか、はたまた自分に向けて誓った言葉なのか。



でも、ただ一つ言えることがあるとすれば、俺は必ず、この手に紗綾を取り戻すということ。



それだけを胸に、俺は闇に意識を委ねた。




この頃スランプ気味なので、もしかしたら更新が遅くなるかもしれません。

矛盾点があったらコメントにお願いします。

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