赤い瞳に映る世界―2―
都市内で名高い学園――黒翼学園。初等部から高等部までエスカレーター式の有名な学園で全国的に有名だ。
中等部の窓が開いている。窓から顔を覗かせる、顔立ちは綺麗だと周りから賛美の声が上がるだろう美貌の持ち主の少女が、ぐったりとした表情を浮かべて、窓から消える。
ごつん、と鈍い音が彼女の教室から聞こえた。
教室からは「またか……」と呆れ混じりの声が聞こえるようだった。
彼女、風見彩羽は、黒翼学園理事を努める風見鷹雄の娘で、黒翼学園中等部第三学年に在籍。簡潔に説明するとなれば、それだけに過ぎない在学理由。
がば、と彩羽は染められたことのない艶やかな黒髪を揺らして立ち上がった。
「この世界は、絶望の中にいる! 救世主を呼ばないと、争いは終わらない! 今現れよ……私のエクスカリバー!」
彩羽は鋏を構えて、決めポーズをした。
それに周りからは冷ややかな眼差し。 だけど、彼女の表情は至って真剣だった。
「風見。座れ」
「煩いです! 今すぐこの世界の救世主、紅血種を!」
「……どこが救世主だ。『風月ノ園』の連中は問題を起こしてばかりだろう。忌むべき種族だ、紅血種は」
否定的なことを述べる教師を彩羽は睨み付ける。
彼女は紅血種の能力は未來への希望となると本気で思っている、少々夢見がちな思いを抱いていた。
彼女は口を開き、紅血種が如何に素晴らしいか語り始めた。
「紅血種は忌むべき種族ではありません。素晴らしい種族です。どの種族にも負けていません。何故なら、自らの命を使い能力を行使しているからです。自らの血液=命。生命を削りながらも戦う勇姿は本当に素晴らしくて、美しい物だと私は思っています」
彩羽は淡々と語り始める。
如何に紅血種は気高く美しい種族なのかと、どの種族にも負けないくらい美しいのだと。
バァン、と教師は彼女の言葉を遮るかのように、教卓を叩いた。
静寂が室内に降りる。
この場での異質な存在となるのは彩羽だ。だが、彩羽は自分が異質だと思ったことはない。何故なら、自分は正しいと思っているからだ。
「風見。お前は早退扱いする。今日は帰って頭を冷やし、何が一番正しいの考え、反省文として提出しろ」
「……分かりましたよー。私の考えは変わりませんけどね!」
彩羽は荷物を纏め始めた。
ちらほらと冷ややかな眼差しが彩羽に突き刺さる。
――何が一番正しいのか、分かる人は早々居ない。
正しいことを探そうとも、見付からない。だが、彼女は紅血種は正義だと考える。正しいかどうか理解しているのか分からないが、どうも『正義』を掲げたくて堪らないで居るだけだった。
「それでは皆さんさようなら」
彩羽はぴしゃりと扉を閉めて教室を出ていった。