気付けば 周りはこうだった
気付けばこうなった の周りの状態です。
side: ある騎士団の副団長
この世界は、人族・竜族・魔族・神族・亜族が住む世界だ。その中でも、魔力を中心とした力があふれる国を持つ竜族・魔族はお互いがライバル関係のようなものだった。だからと言って決して関係が悪いわけではなく意外と交流関係は盛んだ。
それとは違い、人族や、神族はどうも種族意識が強く、他種族をあまり快く受け入れるということはない。亜族に関しては割と竜族・魔族に近いものはあるが、この二種族ほど偏見に対して寛容ということはなく、ある程度の警戒はされる。ただ、例外もあるようだが・・・・。
ともかく、種族間での交流というものは、主に竜族・魔族ぐらいしか積極的にしていないということが結論だ。
そして・・・・今回の事件はそんな交流時に起った。
人族はあまり力が強くない。その割に欲が深い者が権力を持つことが多い。そのため何度か異界から竜族や魔族、神族などを廃そうと召喚を行っている。そのせいで、世界にあふれるマナが悲鳴を上げているのだが、今回もそれが起こった。
われら魔族の王族近衛騎士団は、異変を感じた場所にすぐに馳せたのだがそこに居たのが、問題の・・・・・・ものだった。
魔族でさえ目を剥くような瘴気にまみれたその血まみれの固まりは、細い息を吐きながら懸命に何かをしようとしていた。
われらはそれに対して、警戒を怠らず、全員がいつでも攻撃を出来るように構えていたのだが・・・・・・そう、それは、瘴気を一気に体に吸い込み始めたのだ。
「やめろ!!!」
「それは、身体に毒でしかない!そんなことをすればお前は滅びるぞ!」
誰かがそう叫んでいたが、その塊は止まることなく瘴気を吸い込み続け、気づけばあたりは一切の瘴気が消え去ってマナがあふれる状態になっていた。
呆気にとられたわれらに、その塊ははっきりと姿を見せて、そして可愛らしい声を洩らした。
「けぷう・・・」
とても満足そうなその声に、思わず脱力しかけたが、その姿を見て目を見開いてしまった。
なにせ、今までお目にかかったこともないほどに素晴らしい、幼竜がそこにいたのだ!
大きなまん丸い目は、漆黒と金に彩られ、満腹からかどこかうっとりしている。そして、可愛らしいぽてっとした体に、漆黒の鱗が光っている。漆黒ということは、すでにとてつもない魔力を秘めているということを体現しているのと同じだった。
「なんて・・・・・愛らしい・・・・・」
誰かがそうこぼしたが、その通りだと言わんばかりに全員が肩を震わせていた。そして、この時ほど、人族の召喚に感謝したことはなかった。
「なんていい仕事してくれたんだ!!人族!!」
「われらに足りなかったのはこれだ!!!!!」
「癒しだったのだ~~!!!!」
思わず口走ったその言葉は、仲間たちにも一斉に広まり、今までにないほどの一体感となってこぶしを握り天へと突きあげていた。
そして、この幼い竜は、周りで見ているわれ等を見ながら、自分の事が気になったのかきょろりと身体を見下ろした瞬間に、2頭身のその体は、ぽてりと後ろへと倒れていた。まんまるいお腹を上にして。
その瞬間、顔をそらして身悶えるものが続出した。
中にはどうやら鼻血をおさえているものもいるようだ・・。
かくゆう自分も、割と危なかった。
が、とりあえず、こけたままというのはさすがに・・・・酷だろう。
幼い竜へ声をかけるが、こちらの言葉が全く通じていないようで、小首を傾げられた。
・・・・倒れたままなのに器用だ・・・。その行動さえ可愛いのだが、ひとまず抱き上げると、竜族が言っていたとおり、ものすごく軽かった。幼竜は風に吹き飛ばされるぐらいに体重が感じられないのだと言われていたが・・・・確かにこれほどであれば、風にも飛ばされるだろう・・。そんなことになれば、けがをするかもしれないので、しっかり抱えると、相変わらず小首を傾げつつ驚いたのか可愛らしい声を上げてからまた、小首を傾げていた。
そして、何か叫んだあと、ぽてりと腕の中で気を失ってしまった。
その瞬間、周りから殺気が飛んできたのだが、断じて私は何もしていない!!!・・・というか、お前ら上官に向かって殺気を向けるとは良い度胸だな。訓練では覚えていろよ。
ともかく、今は腕の中でくったりと気を失っている幼竜をどうにか休めるところへ連れて行くことの方が先決だ。
「城へ戻るぞ。竜族にも連絡をすぐに入れろ。幼竜が召喚などということは初めてだからな。」