夏色だった君
彼には夏がよく似合っていた。
明るくてあったかい世界。
彼に良く似合う季節だった。
少し焼けた肌に輝く太陽のような笑顔。
曇り空を見上げる。
季節は巡って冬になったんだ。
ハラハラと舞い降りてくる雪。
「どうりで寒いわけだ」
もふっとマフラーに顔をうずめた。
コートでも来てくればよかったな。
どんどん雪が降ってくる。
手のひらに落ちる雪は体温で溶けてゆく。
暑かった夏も過ぎていった。
そして…そして……太陽のように優しくて暖かかった君も、あの夏と一緒に……。
ずるりとその場に崩れ落ちる。
地面に膝をつき項垂れる。
見たくない現実。
目を背けたい真実。
あの夏からずっと私が逃げてきたもの。
君はいないんだよ。
冬が終わってまた夏が来ても、夏がよく似合っていた君はいないんだ。
私の隣にはいないんだ。
目の前には冷たい石。
その中で君は眠る。
「あぁ……本当に寒いっ……」
あの夏を返して下さい。