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召喚

 ルシアンはすぐに皆を起こす。幸いというか、大部屋しかなかったので、4人は同じ部屋に寝ていた。最も長い間一緒に冒険をしてきた仲なので、プレイベートの日でも無い限り一緒に寝ることに抵抗はいまさらなかった。


「どうしたんだルシアン?」


 アルデリックが眠そうに目をこすりながら起きる。本来ならことさら気配に敏感な剣士だが、外の気配に気付いてないようだった。


「魔物に囲まれた。しかも100や200じゃない数だ」


 ルシアンが声を押し殺して言う。


「そんな嘘よ!」


 シルヴァーナが叫び声を上げそうになり、慌てて両手で口を塞ぐ。自分達は何も無警戒に寝てたわけではない。シルヴァーナは言うに及ばず、エリスティアも結界を張っていたのだ。強力な魔物に破られることは可能性としてあるが、気付かないなんて事は有り得ないはずだった。


 ルシアンはみんなを起こした後、もう一度窓の外を見る。夢ではない。厚い雲が空を覆い、月も星も見えない暗がりの中、人型の魔物が持っているたいまつだけが明かりの源だ。そのかすかな明かりで見える範囲でも千体以上の魔物がひしめき合っている。見えない範囲など考えたくもなかった。


「殆どは下位の魔物だが、トロールやキメラの類も居るな……くそ、動きに統制が取れている。上位の魔物がいると考えてよさそうだ」


 アルデリックが外を観察して言う。魔物とひとくくりに言っても、それぞれが協力関係にあるわけではない。敵対しあっている魔物も多い。これがいわゆるスタンビートなら無秩序に暴れまわっていることだろう。だが明確に自分たちの周辺に秩序だって待機している。

 正直王都を出たころの自分たちであれば、この程度の包囲網なら正面切って食い破れただろう。だが、オーク数体に手間どる今の状態で、この集団に突っ込むのは自殺行為だった。幸いにして理由は分からないが、直ぐに襲い掛かってくるような雰囲気はない。


 他の三人が緊張と恐怖で浮足立っている中、一人エリスティアだけは落ち着いているように見える。眼を瞑り真剣に何かを考えているようだった。


「エリスティア大丈夫か?」


ルシアンが心配して声をかける。考え事を邪魔しては悪いかと思ったが、時折苦しそうにして、暑くもないのに無いのに額から汗がにじみ出ていたからだった。最も汗に関しては自分もかいてはいるのだが。


「ええ、こうなった場合やろうと決めていたことではありますが、実際行うとなるとなかなか決心がつかないものですね……」


 伏目がちにそう呟き、何かを決心したその姿はこんな状況でも美しいと感じられ、ルシアンから恐怖を取り除いていく。


「何をするんだい?」


 ルシアンは尋ねる。


「神を呼びます」


 エリスティアはそう答える。


「え?もしかして神を自分に降ろすの?神聖呪文の中でも最高難易度で、術者に命の危険がるって聞いたけど」


 シルヴァーナが驚いて、エリスティアにそう尋ねる。


「いえ、自分に降ろすのではなく、呼んで交渉するんですよ。命の危険があるのはその通りですね。ですが、このままではどうしようもありません。決心しました」


 そう言ってエリスティアは微笑む。確かにこのままではどうしようもない。しかし、決心したと言った、エリスティアの手が僅かに震えているのにルシアンは気付いた。ここにラヴェルがいたらという考えが頭をよぎる。だが彼はポーターの中では優秀だったかもしれないが、所詮はポーター自分たちが傷つくような戦いでは死んでいただろう。寧ろ足手まといになって、今より危機に陥っていたかもしれない。そう思い直してその考えを振り払う。


「では、私から少し外れていてください」


 そう言ってエリスティアは窓辺へとすたすたと歩いていく。危ないとやめさせようとしたがルシアンも、ほかの二人もエリスティアの放つ気配に押されて何も言えなかった。今から行われるのは人が決して触れてはいけない、神の領域に関わることなのだ。魔法に疎いアルデリックでさえも感じられる厳かな空間がそこにあった。


 エリスティアは窓を解き放ち、両手を挙げ唄とも呪文とも言えない、どこの国の言語とも違う言葉を天に向かって紡ぎ始める


「♪~♪~」


 それは時に天上にから降り注ぐ光のように美しく、時に地獄の業火のように禍々しく感じられる不思議な調べだった。


 エリスティアは朗々と言葉を紡いでいくが、無防備なのに攻撃は一切来なかった。どれぐらい時がたっただろうか、窓から松明の光とは違う明かりが漏れてくる。ルシアン達が顔を見合わせ、何とか窓から外が見える位置に移動すると、そこから見えたのは、まるで宝石をちりばめたように輝く星空だった。先ほどまではあんなに厚く曇っていた空が晴れ渡っていたのである。そしてその星の輝きはだんだんと強くそして大きくなっていく。それはいつしか魔法陣に代わっていた。見渡す限り空一面に浮かぶ無数と言ってもいいほどの魔法陣である。

 魔法陣の中心から光の柱が地面へと延びる。そして、それが魔物に到達すると、魔物はだんだんと色が抜け、最後には白い石膏像のようになり、ぽろぽろと崩れていく。そしてそれと同時に魔法陣から人型の何かが現れる。そんな光景が視界一杯に繰り広げられた。魔物の目には明らかに恐怖が見て取れるが、なぜか動くこともできず、次々に白い粉になって崩れていく。空にある無数ともいえる魔法陣からは次々に光り輝くものたちが現れる。中には人型でないものもいるが誰もが輝いている

 神だ。ルシアン達はそう感じた。神聖魔術をかけられたときに僅かに感じる神々しさを、まるで身体を押さえつけられるような重さで感じる。知らず知らずのうちに跪いていた。降りてくる神々を直接見ることなど畏れ多い。ルシアン達は全身でそれを感じていた。


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