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異変

 ラヴェルが追放された夜。勇者ルシアンは愉快で仕方がなかった。しばらく前から気に入らなかったのだ。年上なのか何だか知らないが、勇者である自分を差し置いていちいち意見を言ってくるウザい奴。それに加え自分が好意を寄せている聖女エリスティアと個人的に話しているのも何度も目撃した。聖女は勇者と恋仲になるものだ。エリスティアが好意を持つことはなかっただろうが、だからと言ってあんな冴えない中年男が自分より仲良くなることなど、許せるわけがない。なのでシルヴァーナの知恵を借り一計を講じたのだ。

 アルデリックは二つ返事で計画に乗った。元々シルヴァーナのことが好きなのだ、よほどのことでなければシルヴァーナのいう事に異は唱えない。戦いのことはともかく、こういった謀略めいた考え事は苦手というのもある。エリスティアには何も伝えていない。あの清らかな聖女はこのようなことにかかわるべきではない。それにパーティーの今後のため、と言っても絶対に止めるに決まっている。騙すような形にはなったが、どうせポーターであるラヴェルは魔王討伐にはついてこれない。選ばれし人間である自分たちとは強さが違いすぎるのだ。

 ルシアンは今夜の追放劇を思い出し、幸福感に浸りながら眠りについた。


そして数か月の時が過ぎ、いよいよ勇者たちは魔王討伐の旅に出ることになった。王都から堂々たる出陣である。魔王軍の脅威が日増しに強くなり、意気消沈する人々が増えていたが、この日ばかりは違った。勇者が進む道にあふれんばかりの人だかりができている。そして立ち並ぶ家々からまかれる花吹雪。勇者たち一行の後ろの馬車には数日前に倒した魔王軍のレッドドラゴンの巨大な頭が乗せられている。それが更に人々を熱狂させた。強さだけならば魔王に匹敵し、1体で1軍どころか国を亡ぼせるといわれたレッドドラゴンだ。それを勇者たちはたった4人で、しかもほぼ無傷で倒したのだ。人々の期待も膨らもうというものだった。人々の熱狂的な声援を受け、勇者たちは王都を後にした。


 

 勇者たちが魔王軍の勢力圏内に入って1ヶ月。最初は順調そのものだった。この分だと魔王城に到達するにも3か月とかからないだろうと思われた。しかし奥に入るにつれ魔物が強くなり、だんだんと歩みが遅くなっていく。今では最初の方の半分どころか、5分の1程しか1日に進めなくなっていた。連日の戦闘と、常に緊張を強いられる環境から、勇者たちは次第に疲労の色を濃くしていった。


それからさらに数日たち、勇者たちは街の廃墟を見つける。それなりに大きな町だったようで、廃墟になっているとはいえ、森の中よりも快適に過ごせそうな家もちらほらと残っていた。その中の1軒で勇者たちは休むことにする。広場に面した、多分宿屋だったところで、奇跡的に2階に部屋が残っていた。2階の半分と3階以上は壊れている。他の建物が壊れているせいで見晴らしはいいし、いざとなっても2階程度の高さなら、難なく飛び降りることができる。

 

「なあ、最近僕達ちょっと調子がおかしくないか?」


 1階に残っていた、何とか使えるテーブルを囲み夕食をとっていると、ルシアンが仲間に向かってそう尋ねる。今日は久しぶりに保存食ではなく調理した料理を食べているが、パーティーメンバーに笑みはない。

 最初は小さな違和感だった。ちょっと疲れたかな、という程度の。しかしそれは日を追って強くなり、今では何日も徹夜したみたいに身体がだるいし、動きも悪い、頭も何か霞がかかっているようで上手く働かない。そのせいで魔法に失敗することも増え始めた。自分だけかと思ったが、他の仲間も同じように疲労が溜まっているようで、同じように動きが悪い。今日なんかいくら油断していたとはいえ、オーク相手に手傷を負ってしまった。あの普通の冒険者ですら倒せるオークにである。特別なオークかと思ったが、見た目に違いは見られなかった。


「やはりルシアンもそう思っていたのか。俺もそうだ。ここのところ剣が重くて仕方がない。剣だけでなく鎧もだ。まるで全身に重りを括りつけられて戦っているような感じだ……」


アルデリックもそう言って頷く。


「二人はまだ良いじゃない。私なんて上級どころか中級の魔法さえろくに発動できなくなったわ。確実に発動できるのなんてほんの初歩的な低レベルの魔法だけよ……」


 シルヴァーナが肩を落としてため息交じりに話す。


「やはりこれが魔王の力でしょうか。瘴気のようなものが漂っているのかもしれません。私も使える神の力が弱くなりましたし……」


 エリスティアも他のものと同じようだった。そもそもエリスティアの本来の力があればオークなど寄って来ることさえできないのだから、衰えを最も大きく感じているのかもしれなかった。


「一度戻って体勢を立て直した方がいいのではないでしょうか。物資も少なくなってきましたし……」


 エリスティアが続けて話す。自分たちは最高レベルの収納袋を持っている。食事を含めて通常の旅なら街によらなくても半年は行動できるだけの物資を詰め込んでいた。魔王城があるところまで距離的に言えば片道2か月程の距離だ。十分だと思われた。だが、1か月以上たつのにその距離の3分の1も進んでいない。通常なら非常事態として引き返す判断をするところだ。だが、人々に盛大に送り出してもらったという過去が、ここにきて帰還するという判断を奪ってしまう。


「いや、それはできない。なに、弱気になることはない。仮に帰還するとしても半分を消費してからでいいだろう。帰りは行きより早いはずだ。これだけの魔物を毎日殺してきたんだからな……考えてみたんだがにいくら相手が低レベルだといっても、これだけ連戦をしたのは初めてだ。やはり疲れが出てるんだろう。ボロボロではあるが今日はせっかく屋根付きの家で寝られるんだ。ゆっくり休もう。それで調子が戻ったのなら、数日ここで過ごしてもいい。結果的に速く進めるかもしれない」


 ルシアンが務めて明るく言う。


「そうだな。少し弱気になっていたようだ。旅はまだまだこれからだってのにな」


「そうね。ちょっと最初から気負いすぎてたのかもしれないわ。数日はゆっくり休んでもいいかもね」


 アルデリックとシルヴァーナがルシアンのいう事に同調する。


「皆さんがそういわれるのでしたら……そうですね。では、今日はしっかり食べて、早く寝ましょう」


 エリスティアがそういってほほ笑む。その笑顔を見ただけでルシアンはなんだか体が軽くなる気がした。


 そしてここしばらくなかった談笑が始まり、久しぶりに十分に食事をとった後、勇者たちは眠りにつく。


どれぐらい眠っただろうか。何かの遠吠えで、ルシアンは目を覚ます。気配を探ると建物の周りに魔物の気配がひしめき合っている。慌てて飛び起き、剣を携え窓から外を見ると、眼下に

うっすらと赤く光る球体が無数にひしめき合っている。それが魔物の目であることに気づくのに時間はかからなかった。


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