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追放

「ラヴェル。残念だよ。あなたがこんな事をするなんてね。僕としては残念だが、パーティーを追放せざるをえないな」


 残念と言いつつ、どちらかというと愉悦さえ含む声で、冒険者パーティーのリーダーのルシアンは目の前にいる中年の男にそう告げた。

 ルシアンは「翡翠の剣」のリーダーであり、この国唯一の勇者の称号を持つものだ。このパーティーには他に剣聖の称号を持つアルデリック。大賢者の称号を持つシルヴァーナ、聖女の称号を持つエリスティアが居る、所謂勇者パーティーだ。そしてそこに入っていたのが今追放を言い渡されたラヴェルだった。ラヴェルはパーティーの縁の下の力持ちと言われるポーターだ。ただ、他の仲間と違って称号などは持っていない。

 ラヴェルは勇者パーティーに参加しているだけあって優秀なポーターだ。ポーターとは一応魔法使いではあるのだが、名前の通り運び屋で、収納魔法を使い、パーティーの荷物を運ぶのが主な役目だ。魔力の大部分を収納魔法に使うため、その他のことにはあまり期待できない。魔力に余力があるなら、その分収納空間を大きくした方がパーティーに貢献できるからだ。

 ただ、非常に高ランクのパーティーにはほとんど居ない。高ランクの冒険者となると、マジックアイテムの収納袋が買えるし、戦闘技能を磨いていなかった場合、高ランクの冒険には付いていけなくなるからだった。もっともそんなに高いランクのパーティーが多いわけではない。冒険者とは命がけの割りに、その日暮らしがせいぜいなものが多い。高ランクの冒険者が人々に一目置かれるのは、強さもあるが、そもそも数が圧倒的に少ないからだ。なのでそれがポーターの致命的な欠点だとは思われていなかった。


 収納魔法は純粋に才能によるため、使えるものが少ない。そのこともあり、基本的にポーターはどこでも引っ張りだこだ。それに運ぶ以外は期待されないと言うことは、危険なこともしなくて良いと言うことでもある。通常の冒険者より高いランクのパーティーに入れ、戦闘では守って貰える。なにせ貴重なお宝や重い生活用具、大量の食糧を持っているのだから……

 ポーターは派手では無いが、冒険者の中では、比較的安全で稼げるクラスとして人気だった。


 その中でラヴェルは例外と言えた。今まで高ランクの冒険者に付いて行った経験を生かして、日常生活のみならず、戦闘面でも助言ができたし、高ランクの敵に対しても自分の身を守るぐらいの戦闘力は持っていた。持っている魔力は膨大で、充分な収納空間を確保しても、パーティー全体に能力アップをメインとした補助魔法をかけることもできた。つい先日Sランクに昇格した勇者パーティーでも十分有用な人物のはずだった。


 追放を言い渡された場所は、平均より上の冒険者向けとはいえ、一般に開放された酒場の中である。部屋の中でパーティーメンバーだけで話すならともかく、ただでさえ注目されている勇者パーティーだ。何事かと酒場がシンと静まり返り、皆が聞き耳を立てる。


 ある意味異様な光景だった。豪奢に輝く金髪と濃いルビーのような瞳を持ち、中性的な雰囲気を持つ、一見すると優男にみえる勇者ルシアン。燃えるような赤い短髪と氷塊のような薄いブルーの瞳を持ち、細身に見えながらその実研ぎ澄まされた無駄のない筋肉をもつ剣聖アルデリック、夜の帳が舞い降りたよう深い紫の波打つ長い髪と森の奥のような深緑の瞳を持ち、その呼び名とは裏腹に官能的な顔とスタイルを持つ大賢者シルヴァーナ、そして輝くような長い銀髪と磨かれぬかれたような黄金の瞳を持ち、整った顔をしたほかのメンバーと比べても、なおずば抜けた美貌を持つ聖女エリスティア。

 誰かひとり相手でも、普通の人間なら委縮するようなメンバーが、どこにでもいるような少しくたびれた中年男を問い詰めている。その男、ラヴェルは白髪交じりの濃い茶髪に、これまた濃い茶色の目を持つ本当にどこにでもいるような中年の男だった。


「パーティー資金を使い込むなんて……優秀なポーターだと信じてたのに、あなたは俺達を裏切った」


 アルデリックはルシアンに続いてそういう。人を射抜くような冷たいアイスブルーの瞳でラヴェルをみる。お前と言わないあたり、まだ自制している方だろうか。パーティー資金を使い込むなどとはポーターはもちろんのこと、どの冒険者でも最もやってはいけないことの一つだ。それに並ぶのは仲間殺しぐらいだ。この町どころか、国の中でも最も有名なパーティーの一つである勇者パーティーのポーターが資金を使い込んだ、その言葉に酒場が少しざわめく。


「もう一度言うが、私は使い込んでいない。パーティー資金は魔王討伐に出発する前に、一度みんなで分けるという話になったと聞いて、私の分を除いて昨日ルシアンに渡した。ここにあるものはすべて私の分だ」


 ラヴェルはルシアンやアルデリックの言葉に臆することなく答える。勇者パーティーが囲んでいるテーブルには金貨が山のように、と言うといささか大げさだが、それでも4、5百枚は積みあがっている。


「ここにある金貨は約500枚。パーティー資金が1000枚だったから、あなたのお金が300枚もあるってわけ?いくらその年まで働いてるといってもポーターのあなたがそんなに貯めれたの?」


 シルヴァーナが小馬鹿にしたように言う。ポーターは稼げるといってもあくまで同レベルの平均的な冒険者と比べてだ。金貨1枚あれば王都にでも住まない限り1年は普通に暮らせる金額だ。その金額を稼ぐことはできても、その金額を貯めるとなると難しい。普通は冒険者を引退する前に10枚も貯まっていれば上出来と言えるだろう。それだけあれば、小さな店を構えることもできるし、田舎で畑と家を買って余生を過ごすこともできる。300枚というのはごく限られた冒険者のみが持てる金額だ。例えば勇者パーティーのような。だがその勇者パーティーのメンバーを凌駕する金額を貯めていたというのは、年齢を考えても不自然な事のように思われた。


「私には何とも言えません。ラヴェルさんが嘘を言うなんて信じられません。ですが、ラヴェルさんを信じるという事は、神の加護を受けし、勇者であるルシアンを疑うことです……仲間同士が騙しあうなんて……」


 エリスティアは悲しげにラヴェルの顔を見て、黄金に輝く瞳を曇らせる。そこからはらりと一滴の涙を流すと俯いてしまう。エリスティアがどちらが正しいと思っているか一目瞭然だった。勇者パーティーのみならず、酒場にいたもの全員が男女の区別なくエリスティアに同情する。ラヴェル一人を除いて。


「エリスティアを変な目で見るな!」


 ルシアンが椅子から立ち上がり、ラヴェルの胸倉を左手でつかみ、そのまま力づくで立ち上がらせる。右手に力が入っていて、今にも殴り掛かりそうだった。

 

「あなたエリスティアを時々変な目で見ていたんですってね。確かに女の私から見ても彼女は魅力的よ。だけど、聖女様に対して失礼よね。そんな事も分からなかったのかしら?」


 シルヴァーナがそう言うと、酒場にいた人々、特に男からの殺意に満ちた視線がラヴェルに突き刺さる。

 ラヴェルは静かに眼を瞑り、軽く息を吐く。そして再び目をゆっくりと開いた。


「わかった。もう私から言うことはない。君たちの希望通り出ていこう。ただこういう形で契約が切れる以上、私から今まで受けていた力は全て無くなるが、それでもいいのか?」


 ラヴェルは諦めの入った力のない声でそう言った。念のためと言った感じで、そこに希望は微塵も感じられない


「当然だよ。僕たちが君の力なしでは弱いとでも?君の補助の力は十分に知っている。収納魔法も便利だ。能力だけでいえば手放すのは惜しいのは確かだね。だが、信頼関係はそれよりもはるかに重要なことだよ」


 ルシアンは掴んでいた手を放し、口元をにやけさせながら答える。ようやく邪魔者を追い出せるという感じだった。

 ラヴェルはそれを聞くと肩を落としパーティーに背を向ける。


「信頼関係。確かにそれは最も重要なことだな。私はそれの構築に失敗したようだ。もっと気を付けるべきだったよ。もう遅いようだがね」


 そう呟くと、そのまま外に歩き出した。


「これは君のものだったんじゃないのかい?」


 アルデリックが小馬鹿にしたように言う。


「ああ、もう私にはしばらく必要のないものだからね。こういう場合はなんていうのかな……餞別?置き土産?まあ、何でもいいか。そういったものだ。好きにするがいいさ」


 ラヴェルは興味なさそうに答え、そのまま振り返ることもなく、酒場を出て行った。


 数日後、川のほとりでラヴェルの着ていたものと思われる衣服や、持ち物が街の近くの川で発見された。衣服には血がついておらず、まるで脱ぎ捨てたような感じであった。不思議に思う者もいたが、ラヴェルの追放劇は町中に広まっており、おそらく変装でもして逃げたのだろうと、そのうちだれも気にしなくなった。


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