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53 王太子のはずだが(その後)

  襲撃事件からひと月ほどが経ち、ゴルドは今、ゼントランの王城内にある牢に囚われている。

 一応、東の隣国の王太子なので、牢と言ってもそれなりの部屋が宛がわれている。

 ゴルドは、確かに無関係な子供を人質に取るという軽くない罪を犯した。

 しかし、それ以外の事件に関しては……基本的にゴルドは蚊帳の外だ。


 エゼルセフ公爵令嬢シレーヌを誘拐したのは、ニーナ改め赤銅色の髪のジーナが首謀者だ。

 ゴルドは共犯者というより、横にいただけだ。

 ひと月前の襲撃事件の実行部隊だけでなく、西の隣国で違法薬物を扱う闇組織を率いていたのもジーナだった。

 ゴルドは、西の隣国へは行ったことも無いそうだ。


 もちろん、ゴルドが行方の分からないジーナに全ての罪を(なす)り付けている可能性もある。

 だがゴルドは、少なくとも人質を取って切り抜けようとしたことを反省していて、自分の知っていることは素直に供述している。

 それに、西の隣国から寄せられた情報にも、ジーナないしはニーナは頻繁に登場するが、ゴルドらしき人物は一切出て来ない。

 調べによれば、ジーナは西の隣国内で、人脈を作り、王女を陥れる策を練り、違法薬物を広めて資金を得ていたことが明らかになっている。

 大活躍だ。


 更に、かなり前から、ジーナがシャールに依頼して、ジーナの配下に武術訓練をさせていたこともゴルドは話している。

 これはシャールの話とも合致する。

 マリスがシレーヌを救出した王都の外れの邸は、元の持ち主にザルノール公が金を払って借りていたものだったが、これもジーナの依頼によるものだそうだ。

 あの邸でゴルドは潜伏していて、ザルノール公やジーナは時折訪れていたそうだ。


 因みに、ゼントラン王国内では、違法薬物はまったく浸透していなかった。

 ザルノール公が使用していたらしいが、それだけだ。

 二冊目の報告書の密談であった、薬物で儲けているような話は、ザルノール公の作り話だ。

 薬物依存のために散財して困窮していた西の隣国の子爵に適当なことを言っていただけなのだ。

 なんて奴だ。まったく。

 いや、そもそも子爵も悪いけども。


 ただ、ザルノール公の呼びかけに応じて、ゼントラン王国内でも、とある貴族が仲間になる予定だった。

 こちらは、実際に薬物をやり取りする直前で発覚して未遂で済んでいる。

 王都近郊に所領を持つその貴族の邸に、セオドア王太子と王太子の側近ジャスティンが踏み込んだのだ。


 セオドアは、作業の途中だったにも関わらず、フェリクスからの知らせを受けて、急にどこかへ一人で行ってしまったが、残されたジャスティンはなんとか泣く泣くやり切った。

 子供の頃に、山での鍛錬で転んで足をねん挫したジャスティンを、セオドアが負ぶって下山してくれたことを思い出して頑張った。

 これで恩は返したはずだ。

 ジャスティンは伯爵家の者がザルノール公とやり取りをした証拠の書簡を見つけたのだ。


 この件も、ザルノール公は、薬物の提供をちらつかせたジーナの指示で働きかけていたようだ。

 ザルノール公こそが、薬物で操られていたのだ。

 ジーナは、西の隣国においての四方八方に渡る奮闘振りも凄いが、ゼントラン王国内でも、相当前から準備を進めていたことになる。

 ジーナとは、何者だ。


 ゴルドは「血の繋がりは定かでは無いが、自分はジーナを姉だと思っている」と言っていた。

 だとすれば、ジーナは王族なのか?

 東の隣国で、赤い髪色は王族を示すと言われている。

 ゴルドの髪は赤い。ジーナもゴルドほどではないが赤味のある髪色を持っていた。

 しかし、ゴルドにも、東の隣国が祖国であること以外、ジーナの本当の正体は分からないのだそうだ。

 でも、父である老王から「伝説の剣士を連れて来い」と命じられて、王太子なのに国を追い出されたゴルドのことを、ジーナは助けてくれた。

 というより、ゴルドの手が汚れないように、自らが一手に、暗い部分を引き受けようとしていたような印象すらある。

 ゴルドもそれが分かっていて、悪事も何もかもジーナに任せきりだったのだ。


 と、ジーナの暗躍振りに気持ちが傾くところだが、目前の問題はゴルドだ。


 シャールも言っていたが、ゴルドもジーナも、国に帰りたいのに帰れない状態だった。

 ゴルドは王太子だが、やはり、ゼントランから逃れられたとしても、国には帰れないと言っている。

 王太子が国に帰れないって、いいのだろうか?


「いいんだ。僕が帰れなくても誰も困らない。別の誰かが王太子になってもいいし、そもそも、父上は永遠に国王をやるつもりだから、王太子なんて存在にも意味がないんだ」


 とゴルドは言っている。


 一応、東の隣国に対し、

「貴国の王太子がゼントラン王国内で罪を犯したため拘束している」ことを伝えたが、返答は、

「ゴルドなる者は王太子を騙る不届き者だ。国からも追放されているので好きに処分してくれ」だった。


「ゴルド君もなんか色々不憫だね。でも、やったことは許せないよ」


 マリス騎士がゴルドに言う。

 マリスは今、セオドアに許可をもらって、ゴルドに会いに来ているのだ。

 実はマリスのすぐ後ろにセオドアもいる。


「ごうも……すい、すいません。反省してます。もうしません。

 自分のことに必死で……特に、あの小さい子供を怖い目に遭わせたのは、今は、本当に申し訳なかったと思ってる」


 マリスはゴルドが「拷問」と言いかけたことに眉を動かしたが、ゴルドは反省もしているのだ。

 聞かなかったことしよう。


 そして、マリスが重ねて聞いてみたが、ゴルドはジーナが今どこにいるのか分からないそうだ。

 ザルノール公も逃亡した。ジーナと一緒かは不明だ。


「マリス、もう時間だ。行こう」


 セオドアが背後からマリスに声を掛けた。

 頷いて、マリスが部屋を出ようとする。


「ごうっ……じゃない、あの、ま、また、会いに来てくれ、ますか?」


 鮮やかな赤の髪を揺らしたゴルドが年齢相応に尋ねたので、マリスはゴルドの境遇に想いを馳せ、励まそうと思って言った。

 あの有名な言葉をだ。


「来るよ、ゴルド君。それまで勉強頑張ってね。

 次は一緒に鍛錬で汗を流そうね!

 国は裏切っても、筋肉は裏切らないよ!」

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