表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/55

52 王女のはずだが(その後)

 襲撃事件からひと月ほどが経った。

 事件の直後、嫌疑を掛けられていた西の隣国の王女タチアーナは、そのまま保護という体裁に変わってもやはり、ゼントラン王国の王城に留まっている。


 そして、ゴルド王太子も、ゼントランの王城内で囚われている。

 ゴルドも今は素直に取り調べを受けている。


 西の隣国内でのことは、ゴルドにも分からないことが多いのだが、ジーナが侍女ニーナとして、タチアーナの周辺で策を講じていたのは間違いないようだ。

 とにかく、ジーナ主導の企みを、何も知らないタチアーナにまるっと(なす)りつける算段だったことが、ゴルドの供述でも明らかになった。


 当初は、舞踏会でことに及ぶ予定だったのが、タチアーナのお忍び城下散策で、何かの害を被る予定のセオドア王太子と、その罪の犯人にされるタチアーナと、それから、別件で(さら)う予定だった公爵令嬢シレーヌが一堂に会するという偶然を得て、ジーナは、急遽予定を変更して一挙に目的を果たそうとした。


 そもそも、タチアーナを城下に連れ出したのは、違法薬物をタチアーナか侍女に持たせる仕込みをすることがジーナの目的だった。

 王城の中にジーナが手ずから薬物を持ち込むことは難しかったのだ。

 ジーナは、城下に降りたタイミングで手の者に命じて、仕立て屋で薬物入りの髪飾りをグレタに渡す手配と、城下散策班から引き離すために、エゼルセフ公爵家の馬車に小さな傷を付けさせた上で、親切ぶって御者に注意を促していた。

 そして、セオドアとタチアーナを襲い、シレーヌを誘拐する指揮を執ったのだ。

 この襲撃事件の日の企ては、ジーナが全て裏で糸を引いていたが、このことを供述したのは、捕らえられた襲撃犯の賊の中で一人生き残った者だった。


 一方で、まだ西の隣国にいたタチアーナに、ゼントラン王国を訪問するよう(けしか)けていたのは、予想通りというか、やはりザルノール公だった。

 これはゴルドが証言した。


 タチアーナに関する二冊目の報告書に密談の話が在ったが、その中で、「私は楽しいことが好きなんだ」と言う者がいて、この人物がタチアーナを(そそのか)していた。

 この言い回し、ザルノール公の口癖なのだ。

 報告書を読んだゼントラン王国のステファン王もセオドア王太子も、すぐにこれに気が付いた。

 もちろん、ザルノール公がタチアーナに馬鹿げた耳打ちをしてゼントランに来させただけなら罪には問えなかっただろう。

 しかしその目的はゼントランと西の隣国との友好関係を壊すことだったのだ。

 他にも見つかった罪も会わせて、ザルノール公は国家に対する反逆者と断じられた。


 タチアーナは、サーラの読み通り、医師の診察も受けて、少なくとも中毒の状態にないことが公に判明した。

 例の子爵令息のことをタチアーナに聴いたところ、何やら鳥肌ものの嫌な思い出こそあるらしいが、親しくも無く、とても恋人と呼べるような関係では無かったそうだ。

 違法薬物についても、見たことも聞いたことも、そんなものが世に存在していることすら知らなかったと言う。

 セオドアは、信じて良いと判断している。


 ゴルドの証言があったのだ。

 ジーナがタチアーナという駒を今回利用したのは、ザルノール公の耳打ち作戦に都合よく乗ったからなのだが、別件で、西の隣国内でジーナは、「タチアーナを貶めて欲しい」と依頼を受けていたそうだ。

 報酬となる金も受け取ったと話していたらしい。

 その依頼主の伝手で、ジーナは様々な便宜も図ってもらったようで、タチアーナの侍女になれたのも、その一つだった。

 そもそも、先にタチアーナの薬物摂取の証言をでっち上げてタチアーナの父王に密告させる計画も、依頼を受けたジーナが仕組んだことだった。


 実は、西の隣国の王にも、ゼントラン王国にも、子爵婦人の告発によってジーナたちの策略はバレていた。

 でももし、薬物入りの髪飾りがタチアーナ付きの侍女に渡っていて、そして、マリスという騎士がいなければ、ジーナの計画はいくつか成功していたかもしれない。

 青い薔薇君の誘拐は勘違いが元だったがとりあえず成功しただろうし、タチアーナを違法薬物疑惑に巻き込めた可能性はある。

 因みに、髪飾りに入っていたものは調べた結果、やはり本物の違法薬物だった。


 タチアーナは襲撃事件のあと、王城に戻ってから本当に静かにしていた。

 タチアーナは何も知らなかったとセオドアは見ている。


 そうなると、当然、タチアーナが薬物を摂取していた現場を見たというタチアーナの元侍女の証言が嘘ということになるが、この元侍女を保護しているという側妃にも疑惑が生じる。

 この辺りのことをグレタに聞き込みしたところ、グレタは、タチアーナの元侍女の証言のことは知らされていなかった。

 しかしグレタは涙を流して、タチアーナの育ての母である側妃がこれまでも、ありもしないタチアーナの悪い噂を流していたらしいことを話した。


 実はグレタは、元々タチアーナの生母の侍女だったのだ。

 タチアーナが生まれる少し前、グレタは婚約者の故郷へ向かうために勤めを辞したのだが、グレタはタチアーナのことがずっと気になっていた。

 婚約者を事故で亡くし、実家も出ていて身分の無いグレタにはタチアーナの近くへ行くことが出来なかった。

 ところが今回、タチアーナのゼントラン王国訪問準備に際して、王の方から思い出したようにグレタに連絡が入ったのだ。


 グレタがタチアーナの育ての母の悪意に気が付いたのは、ゼントラン王国へ向かう直前だったので、西の隣国でグレタは何も出来なかったが、訪問を終えて祖国へ戻ったら、なんとか父王に掛け合って、タチアーナと共に修道院へ避難したいと、グレタは考えていたそうだ。


 タチアーナに教養が足りていないことや振る舞いに問題があることは確かなことだが、でもこれまでは、グレタのようにタチアーナ自身のことを考えてくれる人物がタチアーナの傍には居なかったのだ。

 サーラの推測はここでも正解を出すようだ。

 グレタが居ればタチアーナは大丈夫なのではないか、と記述された事件の調査報告書を、セオドアも頷きながら読んだ。


 反対に今後、タチアーナの育ての母である側妃が厳しい立場に立たされることは間違いない。

 王女に対して、複数の恋人と(ただ)れた関係を持っているなどと言う噂を捏造するのもなかなかだが、違法薬物についての偽証に関わったとなると、簡単な話では済まないだろう。

 そもそも、ジーナに金で依頼した人物が、この側妃その人である可能性も高い。


 加えて、ゼントラン王国内での襲撃事件を受けて、泳がせる必要が無くなったため、西の隣国において違法薬物の普及に精を出していた子爵父子が捕らえられたそうだ。

 が、子爵邸に役人が乗り込んだ際、父子は薬物を過剰摂取して意識が無い状態だったらしい。

 自業自得なのか、ジーナが口封じをしたのか………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ