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48 王太子のはずだが

 ゴルドは人質の子供を離さないようにして、でも少しだけ、頭を捻るような仕草で少し考えた。


「伝説さまー、ダメだね。

 だって伝説様、無茶苦茶強いじゃないか!

 ついて来てくれるなんて言っても、この子を渡した途端に、僕なんか、すぐやられちゃうじゃないかー」


 確かにそうだ。

 どれだけ縛っても殴っても何をやっても、シャールが最後は勝つ気がする。

 しかもゴルドはシャールを、まっさらピカピカの万全な状態で、老王にお届けしなくてはいけないのだ。


「伝説様を父上のところへ連れて行くのは一旦諦める。

 だから、こいつは人質続行だ」


「だったら、私が人質になろう」


 そう、言いだしたのはセオドアだ。

 その場の者たちが驚いてセオドアの方を向いた。

 ゴルドは言う。


「えー、誰? 誰? なんか背が高いし体格も良いじゃないか。

 お前も人質になった瞬間に反撃しそうだ。無理無理」


「心配無い。

 私は、少し前、この国の剣術大会に出て、一回戦で女性に負けている。

 しかも、一撃で伸されて担架で運ばれた」


((( っ! 全部ホントのことだけども! )))


 その場にいた騎士たちが同じことを思って狼狽えた。

 確かに事実なんだけど、王太子ご本人から改めて聞くと、身も蓋も無い。


「えええっー、ハハハハハ、ウソだ!」

「いや、本当だ。そうだろ?」


 セオドアが、一番近くに居た四十代後半だろうベテラン騎士に問いかけた。


「そ、その通りでありますが、しかし……

 いや! そうではなくて、わたくしめが人質になります。

 貴方様は、決して早まられてはなりません!」


 ベテラン騎士の返答に、ゴルドは何かを思い出した。


「そうか! 分かったぞ!

 お前、王太子だな! その話、えーと誰だ?……

 誰かに聞いたぞ……

 そうそう! あいつだ、アディファンだ。

 あのオジサンから聞いたわ。

 じゃあ、ホントにそうなんだ。そんな奴実在するんだ。

 アディファンの作り話かと思ったのに!」


 アディファンとは……奴だ。

 王ステファンの弟、セオドアの叔父君、ザルノール公の名前だ。

 やはりと言うべきか。


 エゼルセフ公爵令嬢の証言で、公爵家の馬車が襲撃される直前に、とある貴族のタウンハウスの位置から合図が出されたことが分かっている。

 それが、まさにザルノール公の母であった前王の側妃の実家なのだ。

 それだけでは無い。


 ジャスティンが王都近郊の貴族家で粘って探し当てた書簡に、ザルノール公が違法薬物をその貴族に売りつける取引きの約束が記載されていた。

 ちゃんとザルノール公の名前と署名もあった。

 取引はまさに、もうすぐ明ける今日この日に行われる予定になっていた。

 ザルノール公が違法薬物に手を染めているのは間違いない。

 公は、ゼントラン王国に仇なそうと企んでいる闇組織のことを知らないはずはない。


 しかし、とにかく今は、現状打破に集中だ。


「アハハハハ! ウケル!

 分かった。お前でいいよ、ゼントランの王太子。

 確か……セオドア王子だな。

 じゃあ、どうしよっかなー 

 …………そうか! いいこと考えた!

 セオドア君さあ、僕の用意する薬飲んでよ。

 そもそも飲ませる予定だったんだから、ちょうどいいな!

 すごい良い考え!

 父上に褒められるぞ! ジーナにも褒められるな!

 昨日の計画は失敗したみたいだけど。

 もう、あのバカ王女とか使わなくてもいいよな! やったー!

 セオドアくーん、大丈夫だよー、死んだりしないから。

 しかも! 気持ちよくなる薬だよー

 しばらく動けなくなるから、反撃もできないし、おー、これで丸く収まるね!」


「お、おやめください……」

「私めが! 人質になります! だから……」

「いいえ! 私めが行きます! 殿下は、殿下はなりません!」


 騎士たちが口々に言う。

 セオドアは、ゼントラン王国の輝く未来そのもの。

 王国のたった一人の後継者。

 我らの大切な王太子なのだ!

 セオドアを人質に差し出すなど絶対に許されない。


「あーダメダメ。セオドア君以外は認めないよ!

 みんな騎士じゃないか! 強そうじゃないか!

 ヒトジチはセオドア君。以上!」


 一方で、人質になった子供は、既に目を白黒させている。

 立っているのもやっとのようだ。

 突きつけられたナイフに自分から倒れ込んでいくかもしれない。

 セオドアは真っ直ぐにゴルドを見て、そして言った。


「分かった。言うとおりにする。そして私を人質にして君は逃げればいい。

 皆も大丈夫だ。死ぬわけではないらしいから、私はちゃんと戻る」


 セオドアに向かってシャールが言う。


「やめろ! こいつは、殿下を殺すかもしれない。

 ……いや、殺す気だ!

 こいつは……ゴルドは……東の隣国の……王太子なんだ!」


 絶望的な空気が騎士たちの間に満ちる。

 シャールは二人の王太子を睨む。

 ゴルドの額にだって大粒の汗が光っている。

 お互いにギリギリの攻防戦なのだ。


 セオドアだけが、険しくとも、その太陽のような強く凛々しい相貌を崩していなかった。

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