表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

47 賢君のはずだが

 やはり二十年ほど前のこと。

 『伝説様』、つまり生ける伝説の天才剣士「ソード」は、東の隣国の老王から熱心に国に招かれていた。

 爵位も財産もやるから、東の隣国の貴族として老王に貢献しろと言うのだ。


 「ソード」は本当に強い剣士だ。

 騎士でも兵士でもないので、戦場に出ているわけではない。

 ただ、十代前半から各国の剣術大会で圧倒的な強さを見せつけていた。

 対戦した者全てが口を揃えて言う。

 「剣士ソードに死角は無い」と。

 そのため、いくつかの国から地位や財産を与えるからと誘いを受けていた。


 中でも特に執心だったのが東の隣国の老王だ。

 二十年ぐらい前も老王だった今も老王の老王だ。


 この場合「ソード」剣士には実戦での戦果が期待されているわけでは無い。

 『生ける伝説の天才剣士』が自国にいると言う、その事実が重要なのだ。

 それだけで国の軍事力の格が上がるのだ。

 剣士「ソード」とは、そういった人物だった。


 しかし二十年前、ソードはあっけなく病で亡くなった。

 という話が流れる。

 実際、葬儀も行われて不憫なことに身重の妻だけが残された。


 そうなのだ。

 事実、ソードは大変悲しいことに他界した。

 だがそれは、マリスの父のことである。

 思慮深く、思い遣りに溢れ、老いも若きも誰からも愛され誰からもその死を悼まれたソードだ。

 剣など、握ったことも無かったという人のはずだ。


 シャールが「ソード」として剣士の名を上げてしまったのは、他でもない二人の友人ティーガーの責任によるものだ。

 高位貴族のブリッツオーフェン侯爵家の嫡男で剣術の名手として広く知られていたティーガーが地方出身で無名のシャールを「ソード」と呼んでいたために、いつの間にか剣術大会でのシャールの呼び名が「ソード」になった。

 前年に好成績を残すと翌年の大会でシード権が得られることもあり、シャールは「ソード」のままで目覚ましい成果を挙げていく。


 そしてシャールは基本、拘らないので面倒になって訂正しなかった。

 だいたい「ソード」の方が名前としても剣士向きだ。


 二十年前、間違いなくソードは死んでしまった。が。

 死んだのは本物のソードで、ソードじゃないのに「ソード」と呼ばれてしまったシャールの方は生きていた。

 こっちが本物の『生ける伝説』だったのだ。


 ん? なんかややこしいか?

 本物のソードが死んだソードで。

 本物の『生ける伝説ソード剣士』がシャールだ。

 いやいや、分かってみればなんのことは無い。

 双子だから誤解があったというだけのことだ。


 ともかく、剣士「ソード」は神の国という誰も手の届かないところへ行ってしまって本物の伝説になったのだ。


 とは言っても、「ソード」の祖国、ゼントラン王国の事情はまた異なっていた。

 だって、自分の国のことなのだ。

 シャールとソードが双子で、どっちが伝説の剣士かなんてことは、ちょっと調べれば分かることだ。

 確かに、双子の郷里は王都から遠く離れていて、情報も上手く伝わっていなかった。


 しかーし、そもそも、事情を一番分かっている元凶のティーガーがいるのだ。

 ティーガーは、「ソード」争奪戦に関して、王になったばかりのステファンに進言もしている。

 国力増強のために、早くシャールを叙爵してゼントラン王国に留めるべきだと。

 東の隣国などに奪われてしまえば、大変な損失だと。


 ところが……ステファンはそれを是としなかった。

 それどころか、騎士爵を与えて騎士団の名誉職に就かせることも、侯爵家の預かりにすることすらも許さないと言う。

 こんな分かりやすい案件なのに、何故かステファンは頑なだ。


 ステファンは、子供だったある頃から急に、見違えるように勉学に励みだし、運動にも取り組み、幽霊王子と周囲から(あざけ)られながらも、為政者としての力を付けた立派な人物のはずだ。

 当時の王に優遇されていた弟王子にも怯まない姿勢を示すことで、弟王子からの陰湿な暴力も跳ねのけた。

 だから、突然舞い込んだ王の座に座ってもステファンは王をやれている。

 なのに、シャールの件にはどうしても云と言わない。


 ティーガーは大変訝しく思って、ステファンを問い詰めた。

 ステファンは口を閉ざしていたが、ティーガーがナターリエに相談すると言った途端に、白状した。


 数年後にはゼントラン王国の賢君として名を上げるステファン王の事情とは……

 ステファンは……ステファンが愛してやまない王妃ナターリエにナターリエが恋慕う相手を会わせたくなかった。

 ナターリエが慕う「ソード」を死んだことにしておきたかった。のだ。

 ステファンはナターリエの「ソード」への想いのことを偶然知ってしまったらしい。


 話を聞いたティーガーは、額に手を当てて、しばらく目を閉じていたが、「ソード」が本当に死んだことにして、とりあえず、他国からシャールが奪われることを防ぐことにした。

 ティーガーとしては、ステファンの御母君のことも考えると、ステファンに無理強いは出来ないと考えたのだ。

 そしてすぐにはステファンが納得できなくても時間の経過と共にナターリエとの関係性が確固たるものになればシャールの叙爵も叶うと踏んでいた。


 一方、シャール自身の方にはとにかく野心が無かった。

 それより、特に若い頃は、どこかに留め置かれることの方に煩わしさを感じていたので、叙爵の話が消えても問題は無かった。

 そもそも、シャールはもともとシャールなのだから、大会に出場するような目立つことをしなければ、生きていくのに制限を受けることもさほど無い。

 なのでやっぱり問題無かった。




 ともかく、二十年前に死んだとされて皆の記憶に伝説としてのみ残っていた「ソード」が、実は生きていたことがいい加減バレたのだ。

 それで再び「ソード」を獲得したいと、東の隣国がゴルドやジーナを使って画策している、というのが今起きていることなのだ。


 いやしかし、人質の子供を救うため、シャールは東の隣国へ行ってしまうのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ