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46 やっと会えるはずだが

 さてさてさてさて。王都の外れ。


 敵の隠れ家の少し手前で、セオドアはちゃんと皆を待っていた。

 セオドアは相当汗をかいたらしく、着ていた服を脱ぎ、騎士団で持っていた予備の隊服のシャツに着替えた。


 まだ暗い。だが、少しだけ朝の匂いがする。

 空が白み始めるのももうすぐだ。


 馬を滅茶苦茶に走らせたお陰か、セオドアはだいぶ冷静になっていた。

 それでも、セオドアは眠さをまったく感じない。

 落ち着いてはいるが目の奥には火の様に燃えるものがあった。


 シャールの案内で、まずは少数で組んだ先遣隊が邸の中を伺うことになった。

 向かうのはシャールとセオドアが中心だ。

 もちろん王太子自ら行くなんてとセオドアは騎士たちに止められたが、ティーガー団長の許しもあり、先遣隊に入った。


 邸は夜明け前ということもあるが、人がいない。静かだ。

 シャールは自分が与えられていた部屋にマリスがいるはずだと向かった。


 セオドアはマリスに再び会えるという時間が近付いて、胸を高鳴らせた。

 この、大変に長い夜が始まる少し前に、セオドアはマリスに会っている。

 でも、挨拶以外の会話はしていないのだ。

 顔が熱い。

 やっと、やっと、やっと、やっっっと! マリスに会える。


 瞬間、前を歩いていたシャールが振り返る。

 なんだ?

 セオドアもそちらを見る。


「伝説様ー、さすがだね」


 ゴルドだ。

 縛られて寝ていたはずなのに。


 ゴルドは、そのずんぐりした体で、十歳に満たないだろう小さな子供を片手で捕まえて、もう片方の手で持ったナイフをその子に突きつけていた。

 子供は恐怖で震えている。


 シャールも見かけたことがある、邸の使用人の子供だ。

 ゴルドは、その子を、全然関係ないのに人質にしているのだ。

 シャールが言った。


「ゴルド、なんでだ? 縛られていたはずだろ……」

「この子がねー、僕を見つけてくれたんだ。で、お願いしたらさ、ナイフで縄を切ってくれた。

 この子、親切だよねー。なんだと思ったんだろねー。

 で、今度はこの子がナイフで切られる番になった、と言うわけだ」

「ゴルドやめろ、罪を重ねるな。その子を、放せ」

「ダメだね。こんな子供、なんの役にも立たないかと思ったけど、結構使えるね」


 ゴルドは薄笑いを浮かべている。

 静かにセオドアが口を開いた。


「マリスはどこだ」

「ふん? マリスって誰だっけー?」


 ◇◇◇


 さて、しばし時間は真夜中より前に遡る。

 シレーヌとシャールが馬に乗って隠れ家を出発した、そのあと。


 シャールのために用意された客間で、マリスはまず腹ごしらえをすることにした。

 空腹なことは間違いないはずだが、食べ過ぎて次の行動に支障が出てもいけない。

 気も張っているので食欲自体が薄い。

 シャールのために使用人が準備した食事を少しだけお腹に入れた。

 水分と塩分はきっちり摂った。

 ワインは瓶ごと持った。


 使用人にはシャールから、薔薇君との時間を邪魔されたくないので呼ぶまで部屋に近付くなと厳命してある。

 使用人たちは、悪人どもと関りはなさそうに見えるが一応用心した。


 客間は続き間になっており、奥の部屋には豪華な寝台が置いてあった。

 マリスは寝室に入って鍵を掛け、扉の前にチェストを移動して防壁も作った。

 それから、掃き出し窓の施錠も確認し、取っ手にマリスが携帯している糸を張って、近くの棚の陶器の花瓶に繋げ、侵入者に備えた。

 そこで一息付くマリス。


 さすがに疲れていた。

 令嬢誘拐という緊張感の中、暗い終着点の見えない長距離走をマリスはこなしたあとだったのだ。


 そしてマリスは……食欲を抑えることはできたのだが、しかし、目に前にあるフカッフカッのベッドの魔力には抗うことができなかった。


 ◇◇◇


「マリスって誰だっけー……ああ、伝説様がそんな風に呼んでたな。あの騎士みたいな女のことか。

 あいつ、僕の腕を無茶苦茶捻ってたなっ。

 あいつなら、まだ部屋の中で、ぐーっすり寝てるよ。

 ハハハ、結構強めの薬が入ったワインを飲んだからね。ジーナが常備してたんだ。

 それだけは、寝たフリとかして、なんとか紛れ込ませられた。

 あいつのことは、これから殺しに行くところだったんだけど、結構早くに皆んな来ちゃったんだね」


 薬とか殺すという言葉を聞いて狼狽えそうになったが、セオドアは耐える。

 ここで動揺を見せてはダメだ。


 セオドアは目だけで周囲を見る。

 ゴルドは一人だけでこちらに対峙している。

 こちらは、セオドアとシャールの他に騎士もいる。

 なので圧倒的にこちらが有利なはずだが、ゴルドは容赦の無い酷薄そうな顔でこちらを見ている。

 子供の命を奪うことに躊躇がなさそうだ。


「馬車を用意してよ。子供はあとから帰してやる。それでいいでしょ?

 少しでもおかしな動きがあれば殺すけどね」


 そう言い放ったゴルド自身も随分若く見える。

 こんな残酷なやり方がどうしてできるのかと思うが、ゴルドだって逃げるのに必死なはずだ。

 ゴルドは続けて言った。


「国に……伝説様を連れてかないと帰れないんだけど、仕方が無い。出直すよ」

「そのことだけど、もしかして俺が東の隣国に付いて行けば、その子を離してくれるのか?」

「え? そんなんでいいの?

 えーーー………なんか苦労して損したな。

 長いこと死んだフリとかして逃げてたんだろ?

 なんだ、子供一人人質にすれば済んだ話だったのかー」

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