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44 無事の、はずだが

 ―― 襲撃事件のあと、セオドア、フェリクス、ジャスティン、シレーヌ、サーラ、そして伝説の剣士 ――


 セオドアは走り出した。


 まだ夜明けまでには間がある道で、月明かりを頼りに、セオドアはもの凄い速さで馬を走らせている。

 周囲が止めようとする声も聞こえていないのか、ずっと先頭を走って行ってしまった。


 そんなことをしても意味がないと分かっている。

 自分一人で突っ走っても、向こうで皆を待たないといけないはずだ。

 敵は、拘束された一人を除いて隠れ家にはもう残っていないらしいが、伝説の剣士も詳しいことは知らないそうで、騎士団からも一応それなりの人数を引き連れて向かっている。

 だから単独行動をすることはできない。


 でも、どうしても、どうしようもないのだ。


 昨夕から、ずっと待機の時間が続いた。

 仮眠を取るように言われたが、眠ることなどできなかった。

 焦りと恐ろしさが交互にやって来て、悪い想像を追い払うことができなかった。




 自らが狙われた襲撃事件のあと王城に到着したセオドア王太子は、公爵家の馬車を狙ったもう一つの事件の報告を受けてからずっと、気が気では無かった。

 しかし、慌てても事態は良くならない。

 今は食いしばって、情報を整理することに頭を使うのだと、セオドアは自分に言い聞かせた。


 まずは、セオドアより少し遅れて戻って来たフェリクスからの報告を受けた。

 フェリクスには、タチアーナ一行を陰から見張らせていたのだ。

 城下散策で、タチアーナに怪しい動きは一切無かったそうだ。

 タチアーナはひたすらマリスにくっ付いていただけだった……

 すぐ側にマリスが居たのだから、何かをする機会自体も無かったのだ。


 フェリクスの機転で、仕立て屋内にも女性の部下を店員として潜り込ませたので、着替え中にも見張りは続行していた。

 タチアーナは着替え中もマリスに纏わりついていたらしい……

 自分がしていた首飾りをマリスに身に着けさせたりしていたそうだ……


 ……それよりも! 終始おかしかったのはタチアーナの侍女だ。

 このニーナと言う侍女、カフェでも仕立て屋でも、時折、見知らぬ者と連絡を取り合っているところが目撃されている。

 それも一見そうと分からないようにしているのだ。

 タチアーナに命じられたのだろうか。


 と、フェリクスの報告を受けた時点では考えていた。


 そして、このニーナ、仕立て屋から姿を消した。

 一応ニーナは、王女の買い物があると断って、警護の男性騎士を一人同行させた上でいなくなっている。

 フェリクスは敢えて泳がせたのだが、そのあとすぐに騎士も()いて、本当に一人で消えた。

 怪しさしかない。



 フェリクスの報告のしばらく後、今度は、王都の近郊でセオドアの代理として奮闘したジャスティンが、証拠の品を持って王城に戻って来た。

 ずっと目星を付けていた人物と違法薬物を結び付ける証拠だった。



 それから、夜半過ぎにエゼルセフ公爵令嬢が元気な姿で王城に現れた。

 更に、マリスが無事らしいことをエゼルセフ公爵令嬢を連れて来た剣士からも聞いて、言いようの無い、脱力感のような安堵に襲われたが、まだ油断していい状況では全くない。

 ところで、エゼルセフ公爵令嬢が誘拐されたのは、「未来の王太子妃だと見なされた為に起こったこと」などでは無く、国を傾けようとする案件とは別のところに目的があったらしい。

 ただ、今、暴こうとしている闇組織の仕業ではあるようだ。

 そしてどうやら、その伝説の剣士も関わっているらしいが、この件に関しては後日改めての対処だ。


 ともかく、エゼルセフ公爵令嬢からも重要な証言が寄せられた。

 この証言に拠ると、彼女が襲撃される直前に、ある方向から、何かの光る合図のようなものがあったと言うことだ。

 地図でその方向を確認すると、とある貴族のタウンハウスの位置と合致することが分かった。


 それにしても、エゼルセフ公爵令嬢は誘拐と言う恐ろしい目に遭ったというのに、大変気丈だ。

 心配掛けまいと気遣っているのかもしれないが、公爵令嬢は、頬を上気させて言っていた。


「とても怖い思いをしたと、当初は考えていましたが、実はずっと、マリス騎士が側で追いかけてくれていたのが分かって、恐怖よりも、今は感謝の気持ちが上回っています。

 それに、もう…………その……たくさん、励ましてもらえたので、今は誘拐前より元気なくらいです」


 それを聞いたセオドアは、マリスを想って胸を熱くした。

 マリスは、難しい局面の中で一人、誘拐された女性を助けようと必死に頑張っていたのだ。

 セオドアもマリスの働きに応え、マリスが無事に戻ることが出来るように踏ん張らねばならない。



 そのあと、エゼルセフ公爵令嬢の無事を受けて、タチアーナの見張り役を担ってくれていた女騎士のサーラ副隊長もようやく任務を交替した。

 その際、彼女が先ほど見つけたばかりだという、()()証拠がセオドアに提出された。

 その上でサーラは、警護としてタチアーナの近くに長くいる立場から、私的な考えだと断った上で、彼女の意見も聞かせてくれている。


 なるほど。

 西の隣国の王から、娘である王女の愚行についての書簡が届いてから、劣悪王女タチアーナという人物が真っ黒の悪である前提で物事を見ていたようだ。

 だが、サーラはそうでは無い見解と別の疑いを示した。


 サーラは、タチアーナが薬物中毒の状態に無いと捉えている。

 それは、違法薬物に手を出したことが有るか無いかまでを判断できるものではない。

 が、少なくとも、タチアーナは薬物で操られている状態には見えないそうだ。

 言われてみれば「組織の密命を受けたタチアーナが、侍女ニーナに指示を出して何か画策している」というのは、なんと言うか、タチアーナの……知性を考えるとおかしいのだ。

 それよりタチアーナも、単に捨て駒と言う役割以前に、何も知らないままで罠に掛けられただけの人間だと考えた方が理に適う。

 何より、サーラが、城下で記念品だと言われて受け取った髪飾りから見つけた証拠が、その考えの正しさを高めている。


 優秀なサーラが自分が受け取った髪飾りの中から見つけたのは、違法薬物らしきものだった。

 それが本物かどうかはきちんと調べないといけないが、サーラは以前にも同じようなものを見たことがあるらしく、確度はかなり高いと考えて良いようだ。


 サーラはタチアーナたちを見張る立場の人間なので、昨晩、王女一行に対して行われた持ち物検査を当然だが受けていない。

 そこで、サーラは気付いたのだ。

 なぜ、サーラに対して薬物の入った髪飾りが渡されるという意味の分からないことが起こったのかについてだ。


 サーラは、本来ならサーラではなく、似た色のドレスを着ていたグレタに薬物入りの髪飾りを持たせる計略が有ったのではないかと考えた。

 しかもタチアーナを陥れる目的でだ。


 サーラとグレタでは背格好がかなり違う。

 しかし髪色が似ている二人は、城下散策では、たまたまドレスの色味も近く、髪型も揃えていた。

 その上、サーラとグレタは、タチアーナのお戯れで「侍女其の一と其の三」という紛らわしい呼び名を付けられていたのだ。

 店員を装って記念品を渡した何者かが、グレタをちゃんと認識していなかったなら、間違えてサーラに違法薬物入りの髪飾りを渡していたとしてもおかしくない。


 一方、グレタに怪しい動きは全く無かった。

 グレタが受け取っていた髪飾りも再度調査したが、何も入っていなかった。

 グレタは、髪飾りも含め、ゼントラン王国側の取り調べにも素直に応じている。

 サーラの考えもそうだが、セオドアもグレタの様子から何も知らないと見て良いと考えている。

 だいたい、相手を間違って、極秘の薬物が渡されている時点で、間違われたグレタが闇組織と繋がっている可能性は薄いと判断した。


 しかしもし、持ち物検査が行われるような何かが起こって、そこでグレタが違法薬物を所持していたとなったら、タチアーナも当然疑われただろう。

 タチアーナが違法薬物を、自分で使用する目的で入手したか、若しくは、セオドアに盛るためだったか………

 この際、薬物を使用した何かの事件が起こらなくても、疑惑が生じればいいのだ。

 先に、証拠の品が出て来た状況下であれば、その疑惑は有効だったかもしれない。

 疑惑が襲撃事件と結びつけられれば尚良い。

 それこそが、ゼントラン王国と西の隣国との関係悪化を狙った敵の策略だったと考えれば色々辻褄が合う。



 そして、昨夕の襲撃で、王城に向かっていた一行を足止めした子供たちが「王女の手下の命を受けた」という証言を当初していた。

 ところが、子供たちとその家族が即座に保護されたあとで、「そう言うように指示されて無理やり金を握らされた」という供述に変わっていた。

 動揺していた子供たちの話は的を得ず、それだけでは判断材料として弱かったが、サーラの意見によって、あとの供述の信頼性が増した。



 しかも、伝説の天才剣士と言われる人物から、賊を率いていたのが誰かという証言も得られた。

 昨夕の襲撃は、(くだん)の侍女、ニーナの企てだったのだ。

 急ぎ西の隣国へ、ニーナについて慎重に調査するよう書簡を送った。

 伝説の剣士は、まだ話があるらしいがとにかく、その件は後日だ。




 セオドアは馬を駆る。

 もちろん、自分だけで解決するのには無理が有る。

 だから、一人馬を走らせても意味が無いことなのだ。


 でも、どうしようもない。息をするのも苦しい。

 マリスが無事なことをちゃんと目で確かめないとセオドアはまともに呼吸もできない気がした。




 その頃、敵の隠れ家のとある部屋。

 黒髪で騎士隊の隊服に身を包んだ者が一名…………倒れていた。

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