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42 王と王妃と、シャールなのでは? 2

「え?」

「え?」


「ん?」

「ん?」


「?」

「?……」


 王妃ナターリエはふーーと息を吐いた。

 王ステファンは仮眠を取ったとか取って無いとかのレベルではなくて、どこかが悪いのだろうか……


「陛下、ええと、まず。

 陛下は今現在、起きてらっしゃいます? それとも何かの夢の中でらっしゃる?」


「ん? ああ、私は起きている。多分、ナターリエが心配で眠れない」

「それは、……まさかとは思うのですが、

 先ほどおっしゃっていた、わたくしがどこかへ行ってしまうと心配されているから……ですか?」


「…………………ん、そのとおり……」

「んー、まさかまさか、わたくしが誰かを、その……慕っていて、その方とどこかに行く、というようなことを、ご心配に?」


「…………………ん、そのとおり……」

「まさか? まさかまさか! まさか、わたくしが、こ、恋いし…たうのが、ソード剣士だと、言うのですか!!!」


 ナターリエがいい加減怒り出した。

 睡眠時間が少ないことも影響しているのかもしれない。


 しかし、ナターリエはあることを今更思い出した。

 そうだ……このステファンの母君は、不仲だった夫を見限って、あろうことか遠い異国の外交官と駆け落ちしてしまったのだ。




 ナターリエの目の前で丸まり出したゼントラン現国王ステファンは、やはり王だった父と東の隣国から嫁いできた正妃の間に生まれた王子だった。

 完全なる政略結婚でやって来た正妃は男児を産んだあと、義務は果たしたと、夫にも産んだ子にも一切関心を示さず離宮に籠った。

 正妃に無視されて前王も次々側妃を迎えるという半ば報復的な態度を取った。


 正妃は離宮で勝手に暮らし、前王は側妃たちとやっぱり勝手に過ごし、ステファンは孤立した。

 そして、母君が逃亡したあと、ステファンには側妃たちからの嫌がらせを受ける日々が待っていた。

 いや、『嫌がらせ』と軽々に呼べる程度のものでは無かった。

 ところが、前王はそれを黙認した。


 正妃を連れて行った国からは賠償金みたいな物資がもらえたし、正妃は最初から妃の役割を放棄していて、いなくなったからと言っても何の問題も起きていない。

 そもそも、今更、未練も……ない。

 だから王はさっさと忘れたい。

 なので正妃を思い出すステファンの顔を見るのが嫌だった。

 いない存在にしたかった。


 ステファンは国王の長子であるにも関わらず、食事を抜かれたり、部屋に明かりを灯してもらえなかったりした。

 そのせいか視力がどんどん落ちた。

 側妃が産んだ弟王子から対戦ごっこと称して日常的に暴力を受けた。

 対戦ごっこで負けると、側妃から墨で顔に落書きされるのだ。

 眼鏡も真っ黒にされて前が見えなくなったこともある。


 とても辛い子供時代だった。

 こっそり助けてくれる老いた従者がいなかったら命すら危なかったかもしれない。




「……陛下は、わたくしが、陛下のお母上のように、いなくなるかもしれないとお考えなのですか?」


 今は王に成ったステファンの肩がまた揺れた。

 小さな子供のように丸まっている。


「……そう……かもしれない。

 母上のことはほとんど覚えていないが。あまり関わりもなかったし。

 でも、また捨てられるのかも……と、考えてしまうのはそのせいかもしれない」


「でも! わたくし、陛下のお母上とは違いましてよ! わたくし、陛下を、とても……」


 ナターリエの顔が赤くなってきた。

 ステファンは、丸まったままなのでそれに気付かず、くぐもった声を上げた。


「いいや! でも、知ってるんだ。ナターリエが、……ソードをずっと、好きだってこと。

 死んだと分かってからもずっと想い続けているってこと。

 大切に、宝箱に、ソードの絵姿を入れてること、知って……るんだ」


 ステファンは知っていたのだ。宝箱の存在を。


「そんな! そんな、そんな……」


 ナターリエの顔が今度こそ真っ赤だ。首まで赤い。

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